(英エコノミスト誌 2016年11月12日号)

トランプ氏、不法移民300万人を強制送還 フェンス利用も

米ニューヨークで演説するドナルド・トランプ氏(2016年11月9日撮影、資料写真)。(c)AFP/JIM WATSON〔AFPBB News

ドナルド・トランプ氏の勝利は、米国についてこれまで確実だったことと、世界におけるこの国の役割を脅かしている。これに取って代わるものは何か。

 ベルリンの壁が崩壊した1989年11月9日、歴史は終わったと言われた。共産主義と資本主義の戦いは幕を下ろした。第2次世界大戦後の数十年に及んだ大規模な思想闘争を経て実権を握ったのは、開かれた市場と西側の自由民主主義だった。

 ところが2016年11月9日の早朝、ドナルド・トランプ氏が270人の選挙人を獲得して米国大統領選挙に勝利したとき、その幻想は崩れた。そして、歴史がよみがえった――それも猛烈な勢いで。

 トランプ氏が勝利を収めたという事実とその勝ち方は、米国の政治を下支えする規範と、傑出した大国という米国の役割の両方に大きな打撃を与えている。

 トランプ氏の選挙運動は素人っぽいうえ、混乱していたと見られていたものの、コンサルタントや評論家、世論調査担当者などの面々は赤っ恥をかかされた。もしトランプ氏が、以前語っていたように政治家の政治生命に上限を設ける制度を採り入れることになっても、そうした制度がどの程度持ちこたえられるのか、自信を持って答えられる人はいない。

 また国外に関しては、トランプ氏は「米国は、世界の覇権国であり続けるという、めったに感謝されない仕事から利益を得ている」という、第2次世界大戦後の大統領の誰もが抱いていた信念に照準を定めている。もしトランプ氏が世界から手を引いたら、その空白を目指して何が飛び出してくるのだろうか。これも誰にも分からない。

 これまで確実だったことがぼろぼろ崩れていくという感覚が、米国の同盟国を揺さぶっている。

 グローバル化は失敗に終わったという恐怖心から、金融市場は乱高下を演じた。これがどんな感覚なのか、ブレグジット(英国のEU離脱)の国民投票を体験した英国人には分かるものの、今回の米国大統領選挙の結果に比べれば、あの国民投票もかすんでしまう。

 トランプ氏の勝利は、世間の一致した見方を打ち砕いた。問題は、それによってできた空白に何が入ってくるかだ。