宮中祭祀で天皇はどんな服を着ているのか?皇居の二重橋

(文:新井 文月)

礼服(らいふく) ―天皇即位儀礼や元旦の儀の花の装い―
作者:武田佐知子
出版社:大阪大学出版会
発売日:2016-08-20

 日本における最高の正装をご存知だろうか?

 タイトルでもある礼服(らいふく)とは、「大宝律令」および、これを改定した「養老律令」の衣服令において、皇太子以下五位以上の貴族の正装と規定されており、わが国で最も格式の高い服である。元日に行われる朝賀の他、大祀や大嘗という特別な祭祀にも用いられており、国家的に最も重要な儀礼に使用された装束といえる。

 といっても明治天皇の即位に際して廃止されてしまったので、現在はその服を実際に見ることはできない。

 憲法第七条に列挙されている天皇の国事行為のうち、「外国の大使及び公使を接受すること」に該当する重要な儀式である新任状捧呈式では、天皇はモーニング姿でお出ましになり式がはじまる。天皇のそばには外相が立ち、ほかに宮内庁長官と通訳、それに天皇の後に続いて松の間に入った侍従長や侍長の姿が見えるのだが、いずれもモーニング姿だ。

 しかし、皇室祭祀には今でも古式の装束がみられる。元旦の早朝の祭儀「四方拝」では、毎年元旦の午前5時半、皇居内の南西部にある宮中三殿と呼ばれる神社のような場の庭に天皇が現れる。その姿は平安時代から伝わる古式の装束で、冠を付けた神社の神主のようだ。庭の中央にある屋根だけの東屋のような場所へ移動し(ちなみにこの時期の都心の最低気温は約3℃)、そこに敷かれた畳の上で、皇室の祖先神が祭られている伊勢神宮、そして四方の神々に向かって、国の安泰や農作物の豊作を祈って拝礼を行う。