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江戸時代は平和なイメージがあるが本当はどうだったのか?(写真はイメージ)

(文:鰐部 祥平)

「火附盗賊改」の正体 (集英社新書)
作者:丹野 顯
出版社:集英社
発売日:2016-09-16

 火附盗賊改(ひつけとうぞくあらため)といえば、池波正太郎の小説『鬼平犯科帳』を思い浮かべる人も多いであろう。特にテレビドラマで中村吉右衛門が演じる長谷川平蔵が「火附盗賊改である!」と見得を切るシーンは有名だ。

 ところが、小説やドラマなどで有名な火附盗賊改という組織がどのような組織であったのかと問われると、私をはじめ多くの人が明確には答えられないのではないか。そもそも江戸の治安を守っていたのは北町、南町の奉行所ではないのか?という疑問が湧いてくる。

 小説や映画、果ては漫画まで江戸時代を扱う作品は巷にあふれるように存在している。そのために、この時代の事はなんとなく知っているように思いがちだ。火附盗賊改もそんな存在の一典型ではないだろうか。

関東一円で賊を殲滅

 では火附盗賊改とはどのような組織であったのだろうか。それを知るには徳川幕府創世記の慶長・元和の時代まで遡る必要がある。戦国の余風が残るこの時代には滅亡した大名家の残党とも言うべき人々が新たな職に着く事もできず困窮していた。こうした者たちの多くが戦士としての生き方しか知らず、平和になりつつある世の中で燻り続けていたのである。

 一度、戦闘員となった者たちが一般人として社会に復帰する事がいかに難しいかは、現代のアフガニスタンや内戦に明け暮れたアフリカ諸国を見れば理解できるだろう。当時の関東一帯も同じような状況であった。こうした者たちの一部、特に下級戦闘員出身の者たちが盗賊として跋扈していたのである。