逆にオートファジーを活用することで、様々な疾病の治療を目指す動きも活発化してきました。順天堂大学と慶應義塾大学は難治性疾患の最右翼として挙げられるパーキンソン病の原因物質を取り除く化合物を特定、東京医科歯科大学は膵臓癌、新潟大学は肝臓癌の治療に有望な関連物質を発見したといった報道が相次ぎます。

 今回のノーベル賞で、オートファジー関連にはざっくり言って年間100億程度の予算がつくでしょう。

 オートファジーはまごうことなく「日本発」の世界に誇るべきオリジナルの研究領域です。ぜひ、ここから、人類の前に立ちはだかる難治性疾患を1つでも多く取り除く「新しいお家芸」を育ててほしいと思います。

 我々物理出身者の目から見ると、小柴さんのノーベル賞の後、神岡という遺産からコンスタントにノーベル賞級の成果が出るのはある意味当然で、これと同様「世界オートファジーのメッカ」として、日本の研究者が活躍することを心から期待しています。

 ノーベル賞の単独受賞は本当に価値あることです。これはまた、この分野で2番手、3番手にあった人にとっては、褒賞のお預けを意味してもいることでしょう。

 そんなことにへこたれず、分野には予算もつくわけだから、応用も結構だけれども、より本質的な基礎の基礎のまた基礎の基礎に相当するメカニズムの解明を、一ファンとしては期待しないわけにはいきません。

 先ほども触れた「隔離膜」はなぜどこから、どのように現れるのか・・・。今のところ謎とのことですし、それがどうしてオートファゴゾームを形成するのかといった、この現象そのものについての基礎研究も、いまだ謎に満ち満ちていると思います。

 さらに言えば、誰もが特段注目しなかった新陳代謝、もっと言えば「恒常性」ホメオスタシスという、生命現象にとって最も本質的な力であり、また謎でもある対象に向けて、果敢に挑戦してもらいたいと思っています。

 大隅さんが歴史的なブレークスルーの仕事をされたのは48歳のことです。日本の様々な分野の50歳に、「この先を!」と発破をかけたい私もまた51歳の大学教員であることを記してひとまず筆を措きたいと思います。