人は1人では生きていけない。誰でも他人と関わりあいながら生きている。人と人との関わり方はさまざまなきっかけがあり、さまざまな形がある。

 学校や会社など「場」を通じて出会う場合、家族など「関係性」から始まる場合、さらにSNSなどのように「知らないまま出会う」というものも登場するようになった。

 そして、「何か」を間に挟んだ関係性というのも存在する。これから紹介する3冊でその「何か」に該当するものは、「本」「前世」「旅」である。

「何か」を挟んだ関係性は、思いもよらない人と出会う可能性に満ちている。学校には同じ年齢の子どもが、会社には似たような働き方を望んだ人が集まるし、SNSなどの場合は価値観の近い人が集まる。

 家族の関わり合い方は、共通項や価値観などを超越した、もっと前提的なものだ。しかし、「何か」を挟んだ場合、その「何か」が吸盤のような役割を果たし、普通ならつながらない誰かとの関係性が始まる予感を孕んでいる。

 思いがけないつながりをもたらす「何か」を描く3冊を紹介しようと思う。

本がつなぐ想い

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』里見蘭、大和書房

『古書カフェすみれ屋と本のソムリエ』(里見蘭、大和書房、税別680円)

 僕は本屋で働いている。しかしだからと言って、本が他のものと比べて特別なものだと思っているわけではない。本は、娯楽の1つであり、知識の入り口でしかない。

 しかし本は時として、魔法のような役割を果たすことがある。本書に登場する紙野君は、本を魔法に変える魔術師である。

 玉川すみれがオーナーを務める「古書カフェすみれ屋」が舞台の物語だ。フードメニューを担当するすみれと、もう1人、古書スペースとドリンク担当である紙野頁の2人で切り盛りしている店だ。

 紙野君とは、修行のためにアルバイトをしていたとある新刊書店で出会った。どんな本の問い合わせにも完璧に応える凄い書店員だった。すみれが古書カフェを開くつもりだと話すと、紙野君が突然、その古書部分を自分に任せてくれないか、と言ってきた。お互いの条件がぴったり一致し、2人は手を組むことになった。

 飲食店は軌道に乗るまで時間が掛かると言われるが、幸い「古書カフェすみれ屋」は常連客もつき、経営的には比較的早くに安定した。すみれの料理の才ももちろん大きいが、紙野君の本を間に挟んだ接客もまた、お客さんの心を確実に掴んでいる。

 店には時折、さまざまな問題を抱えた人たちがやってくる。彼らの話を店内で静かに聞いている紙野君は、唐突に店内のある本を差し出し、これを買ってください、と言う。今のあなたに必ず必要な本だから、と言って。