「流れに掉(さお)さす」というと、時流や大勢に流されないという意味で使いたくなるが、これは誤用であるらしい。

 本来は、水の勢いに乗るように物事が思い通りに進行するという意味で使うのが正しい用い方であるという。いまのご時世、四方を見渡しても勢いのある流れなど見当たらない。ため池のような場所が増え、掉さしたくても流れがないということも多いのではないだろうか。

 そんな時、これから紹介する本に書かれた彼らの生き様は、とても参考になると思う。彼らは流れある時代に流されない生き方をし、流れなき時代に棹をさすような生き方をする人々である。

 今回のテーマは自分の信念を貫く3冊だ。

手伝ってくれたお客様、「まかない」食べられます

未来食堂ができるまで』(小林せかい、小学館)

『未来食堂ができるまで』(小林せかい、小学館、税別1500円)

 著者が自分でお店を持ちたいと思ったのは、15歳の時だったという。中学の帰り道にどうしても小説の続きが読みたくなって入った喫茶店。そこで「学校の自分」でもない、「家にいる時の自分」でもない、「そのままの自分」をまるごと受け入れてくれる空間に衝撃を受けるとともに抜群の心地よさを感じ、将来自分はこのようなお店を開店するだろうと直感したそう。

 時は流れ、東京工業大学の数学科の学生となった著者は、学園祭で個人的に喫茶店を出店し、1年生から4年生まで連続で来場者投票において人気ナンバー1を獲得する。

 その結果で少し満足してしまったのか大学卒業後は日本IBMへと入社し、そこで6年間勤めたあと、エンジニアの憧れの的であったクックパッドへの転職を決める。当時のクックパッドに入社できるのは、大学院を出て博士号を持っている人や本を出版している有名エンジニアの方がほとんどで、著者は初の女性エンジニアとして活躍を期待されたが、その先のキャリアを思い描けない日々に焦りが募る。

 料理レシピのコミュニティウェブサイトを運営する会社だけあって、ランチを社内のキッチンで自由に作ることができる環境が整っていた。ある日の昼食で著者は「まかないランチ」を振る舞い、好評を博したことで一念発起する。

 この経験によってムクムクとお店を開く気持ちが大きくなった著者は、クックパッドを退職して「未来食堂プロジェクト」を始動させるに至る。夢の実現へと動いたのだ。それから開店までの1年半における紆余曲折と、開店してからつい最近までをつづったブログを書籍化したのが本書だ。

 この本を読んで心に刻まれたことがある。