(英エコノミスト誌 2016年10月1日号)

トランプ氏が対キューバ制裁違反か、クリントン氏が批判

米大統領選の民主党候補ヒラリー・クリントン氏(左)と共和党候補ドナルド・トランプ氏の写真を配した米大統領選テレビ討論会の宣伝車両。米ニューヨークで(2016年9月26日撮影、資料写真)。(c)AFP/Jewel SAMAD〔AFPBB News

ヒラリー・クリントン氏はドナルド・トランプ氏を挑発して軽率な告白を引き出した。しかし、米国はいまだに割れている。

「我々は壁のある世界に住んでいる。この壁は、銃を持った男たちの手で守らねばならん」 米国映画「ア・フュー・グッドメン」の最後の場面で、悪魔のような形相のジェセップ大佐は怒鳴った。そしてすぐに、自分が若い海兵隊員に懲罰を命じて死に至らしめたことを認めた。その命令は、前線にいる自分の部隊の規律を維持するためだった。

「お前の言うとおりだ。俺が命令したんだ」

 これは映画の中のよくできた告白シーンの1つである。9月26日にニューヨーク州ロングアイランドのホフストラ大学で行われた米大統領選挙の第1回テレビ討論会を見ていて、不意に思い出したのはこの場面だった。

 ドナルド・トランプ氏は何度も何度もヒラリー・クリントン氏の誘いに乗り、ジェセップ大佐ばりの率直さを見せつけた。

 2006年に、何百万人もの人々が自宅を手放さなければならないような不動産市場の暴落を平然と望み、そんな下落相場が来れば「ひと儲けできる」と考えていたことを指摘されると、トランプ氏は前屈みになってマイクに向かい、「ちなみに、そういうのをビジネスと言うんだ」とうなった。

 納税申告書の公開を拒んでいることについても軽率な自慢をした。クリントン氏は、普段話しているほどには裕福でないことを国民に知られたくないのだろう、それとも、これまでに公開した数年分の申告書(カジノのライセンスを取得しようとしていた時期のもの)で連邦所得税を納めていなかったことを知られたくなかったのかと鎌をかけた。すると、トランプ氏は「それは私が頭がいいということだ」と言い返したのだ。

 では、自分のホテルに納入させた大理石の代金を全額払っていないとか、最も新しいゴルフコースの設計者への支払いも拒んでいるという評判についてはどうなのか、とクリントン氏は聞いた。クリントン氏はこのとき、いかにも政治家らしい口ぶりで、今夜この会場にはあなたが支払いをしていない建築家が来ていると告げた。トランプ氏は嘲笑しながら、「それは多分、彼がいい仕事をしなかったからじゃないか」と返した。

 また、司会を務めたNBCテレビのレスター・ホルト氏から、バラク・オバマ大統領は米国生まれでないという人種差別的な陰謀論を何年も唱え続けているが非白人の米国人に何か言いたいことはあるかと振られたときには、「私は何も言わない」と突っぱねた。それどころか、2011年にオバマ氏に長文の出生証明書を公開させたのは自分だと自慢する始末だった。