(英エコノミスト誌 2016年9月10日号)

国境壁の建設費「メキシコが払う」 トランプ氏、移民政策を発表

米アリゾナ州フェニックスで演説する米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏(2016年8月31日撮影)。(c)AFP/Getty Images/Ralph Freso〔AFPBB News

政治家は常にウソをついてきた。では、政治家が真実を完全に置き去りにしたら、それは重要な問題なのだろうか

 ドナルド・トランプ氏が事実からどれほど遊離しているかを考えてみてほしい。同氏が住んでいる世界は現実離れしている。そこではバラク・オバマ大統領の出生証明書は偽造されたもので、大統領はイスラム国(IS)を創設したことになっている。クリントン一家は人殺しで、予備選を戦ったライバルの父親は、ジョン・F・ケネディ元大統領が暗殺される前に犯人のリー・ハーベイ・オズワルドと一緒にいたことになっている。

 トランプ氏は今や「ポスト真実(post-truth)」の政治、すなわち「真実のように感じられる」が実際は事実無根の主張に依拠した政治を代表する存在だ。同氏の厚かましさは処罰されるどころか、エリート権力に立ち向かう意思の表れだと解釈されている。しかも、そのような政治家はトランプ氏だけではない。

 ポーランド政府には、飛行機事故で死亡した元大統領はロシアに暗殺されたと断言する向きがいる。トルコには、失敗に終わった先のクーデターの実行犯たちは米中央情報局(CIA)の命令に従って行動したと主張する政治家がいる。また、英国の欧州連合(EU)離脱を支持する陣営は国民投票の前に、トルコがEUに近々加盟するため大量の移民が英国に押し寄せてくると警告していた。

 本誌(エコノミスト)のように、政治は根拠に基づいて行われるべきだと考える人にとっては、こうした事態は懸念すべきことだ。民主主義がしっかり根付いている国には、「ポスト真実」の浸透を防ぐ仕組みがあらかじめ組み込まれているが、それに比べると権威主義的な国は脆弱だ。