(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年8月22日付)

トランプ氏、陣営幹部をまた刷新 保守系メディアの幹部加入

米フロリダ州キシミーで開かれた選挙集会で演説する共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏(2016年8月10日撮影)。(c)AFP/Gregg Newton〔AFPBB News

 もう間違いない。ドナルド・トランプ氏が進路を中道に切り替えることはもうない。「トランプにはトランプ流を貫かせよ」というのが同氏の陣営の新しいモットーだ。もっとも、同氏はトランプ流以外のやり方を試みたことがないのだから、このモットーは不可解ではある。

 極右の保守系ウェブサイト「ブライトバート・ニュース」のスティーブン・バノン氏を選対本部長に迎え入れることにより、トランプ氏は依然くすぶる疑問を一掃した。ホワイトハウス入りを目指す同氏の今後の選挙戦では、白人層の怒りをあおることが最重要課題になる。今後10週間、隠されてきた恐怖を見つけ出しては次々に火をつけていくことになるだろう。

 リチャード・ニクソンが大統領を辞任して米国の「長きにわたる国家的悪夢」に終止符を打ったのは、すでに30年以上前の話になるが、トランプ氏による国家的悪夢はまだ続く。大統領選挙の本選挙で負ければ終わると思える理由はほとんどない。

 かつてテレビのリアリティー番組のスターだったトランプ氏は、イデオロギーの面だけでなく心理学の面でも同じくらいニクソンに借りがある。第37代大統領のニクソンは、切手収集家が切手を集めるように、いろいろなものやことへの恨みを集めていた。根に持ちたくないと思うものには出会わなかった。FOXニュースの創業者ながら会長職の辞任を先日余儀なくされたロジャー・エイルズ氏は、そのニクソンにもっと笑顔を作るように、そして大統領に当選した1968年の選挙ではテレビを友人として扱うように指導して名を上げた。

 そのエイルズ氏が現在、ヒラリー・クリントン氏とのテレビ討論に備えるトランプ氏のコーチになっていることは、決して偶然ではない。コーチとしての仕事は山のようにある。トランプ氏が法と秩序の重要性を訴える、恐怖をベースにした選挙運動を展開しているのは、ニクソンの1968年の作戦にヒントを得たのかもしれない。だが、今日のサイレント・マジョリティーは、当時に比べるとかなり白人色が薄れている。選挙の戦略として考えるなら、トランプ氏の陣営は深く考えずに自殺行為に手を出している。

 とはいえ、この行動はメディア戦略としては機能している。ニクソンは、人間は愛情よりも恐怖の方に強く反応すると考えていた。「そういうことは日曜学校では決して教えないが、それが真実だ」と語っていた。また、エリートを強く憎んでいた。ニクソン政権の副大統領だったスピロ・アグニューが「軟弱なくせに生意気で上流気取りのやつら」と呼んだ大学教授、アイビー・リーグの学生たち、そして専門家たちなどがその代表だ。