東海バネ工業で働く職人の方々(写真提供:東海バネ工業、以下同)

 ICTの進展により企業経営がガラス張りになる「透明化社会」において、社員がいきいきと働き、顧客に選ばれ続ける「感動企業」になるためには、確固たる経営理念・経営哲学が不可欠だ。

 筆者はこれまで多くの「感動企業」を取材してきたが、商品やサービスの価格に対する理念・哲学はほぼ共通している。

 価格の安さを訴求するのではなく、提供する価値に対する対価としてリーズナブルであることを訴求している。価格は決して安くはないが、それだけの価値があるということを顧客に納得してもらっているのだ。

 今月は、その典型的な事例として、東海バネ工業(本社:大阪市福島区)を紹介しよう。同社は、2008 年に「第8回ポーター賞」(一橋大学国際企業戦略研究科主催)、2010 年に「日本マーケティング大賞奨励賞」(日本マーケティング協会主催)を受賞するなど、その独自の事業戦略である「競争しない競争戦略」が高く評価されている。

 ちなみにポーター賞とは、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授をアドバイザーとして、製品、プロセス、経営手腕においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行し、その結果として業界において高い収益性を達成・維持している企業を表彰するために創設された賞だ。ポーター賞の受賞を知らされたときは、渡辺良機氏社長もさすがに「びっくりした」という。

作れないバネはない、匠の技

 同社のバネは、一つひとつが職人による手造りの特注品だ。明石海峡大橋や東京スカイツリー、人工衛星、ロケットなどで使われる特殊なバネを製造している。国内のバネメーカー約3000社の中でも、このようなバネを製造できるのはわずか数社だけと言われている。

 平均受注ロット数はわずか5個。「多品種少量生産」ならぬ「多品種超微量生産」を特徴としている。単価の安い規格品・汎用品の大量生産は一切行わず、顧客からの受注生産、オーダーメイドを基本としている。

東海バネ工業で製造したバネの一例。一見、バネには見えないようなものもあり、用途によって形状や大きさ、材質などさまざまだ。