かつて地球は、人類の力がとても及ばない巨大な存在だった。しかし現代では、人類の活動が地球全体の環境を変え、気温や雨量などを変化させるに至っている。

 このため、地球の歴史が新たな時代に突入したと考える科学者から、「人類世」(Anthropocene)という名称が提案されている。私たちはこの「人類世」において、地球環境と人間活動の調和を実現する必要に迫られている。

 この調和の実現に向けて、世界の科学者がアクションを起こし、Future Earth(地球未来学)という新しい科学を作るための壮大なプロジェクトが開始された。今回は、このFuture Earthの背景とビジョンについて紹介し、科学と社会の新しい連携のあり方について考えてみたい。

人類が地球を変えた4つの転換点

 まず、「人類世」に至る歴史をふりかえってみよう。環境への影響という視点で人類の歴史を振り返ると、大きな転換点が4回あったことが分かる。

 1回目は人類がアフリカからの移住を開始した約6万年前である。言語による高度なコミュニケーション能力を身に付けた私たちの祖先は、狩猟採集を行いながら世界各地に広がり、マンモス、巨大カンガルーなどの大型草食動物を次々に滅ぼし、生態系の食物連鎖を大きく変えた。

 以来、人類は地球の食物連鎖の頂点に立つ捕食者として、野生動物を狩り続けている。しかし狩猟採集社会の人類は、森林を伐採するような技術は持たず、その環境影響は、食物連鎖を変えるに留まった。

 2回目は約1万年前から5000年前にかけての農業の開始である。農業生産に支えられた定住生活の下で人口が増え、統治機構を備えた国家が成立し、国家事業として農地開発が進められ、森林が各地で伐採された。

 しかし、家・船・荷車などを作るために木材が利用されたし、食用・薬用などに多くの動植物が利用されたので、森林や生物多様性を維持する必要性も高く、長期にわたって農業が維持された地域では、農地と森林のバランスに配慮するような経験的判断もしばしばなされた。

 3回目の転換点は、15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた、大航海時代である。キャラック船やキャラベル船と呼ばれる帆船の開発と、羅針盤による外洋航海法の確立が、この時代の転換をもたらした。

 この時代の帆船は、主としてカシ(どんぐりの仲間)の木材によって作られていた。キャラベル船(Caravel)の名は、ポルトガル語のCarvalho(カシの材)に由来すると言われている。造船用のカシの材を得るために、森林を維持する必要性は依然として高かったのだ。ヨーロッパにおける良好なカシ林の存在が、大航海時代の到来を支えたと言っても過言ではないだろう。