以下、トレジャリー業務ごとのソリューションと、主な留意点について解説していきましょう。

現金管理……トレジャリー・マネジメント・システム(TMS)等による情報集約を通じ、口座の見える化を図ります。
 単独でも実施可能ですが、口座残高が見えただけでは意味がなく、銀行借入や為替取引など各種金融取引情報も収集しないと、次の具体的な施策は立案できません。
 これ単独というよりは、「資金繰り管理」「為替リスク管理」「銀行のカウンターパーティーリスク管理」のベースとして活用します。

資金繰り管理……TMS等による標準化・効率化で資金繰り管理を精緻に行います。
 単独でも実施可能ですが、「キャッシュプーリング」「グループファイナンス」「為替リスク管理」と併せて活用しないと効果は出にくいでしょう。
 また、A/P(Account Payable、買掛金)、A/R(Account Receivable、売掛金)をTMSに取り込むため、ERPとTMSのインターフェイス開発が必要ですが、各国・地域でERPがバラバラだと開発コストが大きくなります。
※グループ会社の余剰資金を集約する仕組み

運用・調達……キャッシュプーリング(アクチュアル※1、ノーショナル※2)やグループファイナスなどのソリューションがあります。
 キャッシュプーリングは単独でも実施可能です。
 規制の厳しい国/通貨は同国内でのプーリングを実施することになります。規制のない国/通貨はグローバル/リージョナルで資金を集約しますが、その際、1~3行のグローバル/リージョナルバンクと企業側のプーリング運営組織を決める必要があるため、あらかじめプーリング構造を設計しておく必要があります。
※1 預金と貸越の残高相殺により負債を圧縮、金利コストを削減するプーリング
※2 残高を疑似的に基軸通貨に換算・相殺し、支払利息を削減するプーリング

リスク管理……グループ全体の為替ポジションを集計、為替予約などを行う「為替リスク管理」と「銀行のカウンターパーティーリスク(信用リスク、倒産リスク)管理」があります。
 いずれも、単独では実施不可です。
 為替リスク管理は、「口座の見える化」「資金繰り管理」とセットで行う必要があります。国単位よりはリージョン単位、リージョン単位よりはグローバルベースの管理が望ましいでしょう。
 為替リスク管理は企業内にプロが少ないため、分散型ではなく中央集権型にして、知識・経験のある人材を極力集約して対応することが求められます。

支払……ペイメントファクトリー(支払代行)、ネッティングといったソリューションがあります。
 ペイメントファクトリーは「グループファイナンス」とセットで実施する場合がありますが、ネッティングは単独で実施可能です。ペイメントファクトリーは、大量に送金がある企業向けです。
 ペイメントファクトリーにネッティング機能を含めることができるため、単独で実施するのか、将来、ペイメントファクトリーを導入するなかで対応するのかを決めておく必要があります。
※債権・債務を相殺するため支払金額と受取金額の差額を決済する仕組み

回収……売掛金消込の効率化・自動化(バーチャルアカウント等)があげられます。単独で実施可能です。


 トレジャリー・マネジメントの推進は、以上の中で「為替リスク管理」を除き、基本的に費用対効果の高いソリューションから始めるべきです。

 なぜなら為替リスク管理は、「リスク管理」でもお伝えした通り、それ単独では実施することができないためです。