キューバ北部・バラデロの海岸(筆者撮影、以下同)

 ブエナビスタ・ソシアルクラブに登場する老演奏家の多くはもう、死んでしまった。アメリカとキューバが国交を断絶したのは1961年。オバマ大統領が生まれた年でもある。それから今年で55年が経つ。

 私が最初にキューバを旅行したとき、中部の町トリニダーから首都ハバナへ戻る乗り合いタクシーの中で、アメリカ人の旅行者と出会った。2013年のことだ。

「アメリカ人ってキューバに来れるの?」と、おそらく少しぶしつけな質問をした私に、アメリカ人の彼は笑いながら答えた。

「大変だけど、来れるんだよ。ほら、現に僕、来てるじゃん」

「大変なの? ビザ取るのが?」

「そう。キューバに家族がいる人、キューバで研究をすることを認められた人、それからその他に芸能人とか要人の特例パス。その3タイプくらいかな、ビザが発給されるのは。たしか、Jay Zとビヨンセも有名人パスみたいなもので来ていたはずだよ」

「あなたはどれなの、有名人なの」

「わはは。そう言いたいけれど、僕は、前二者だね。僕はフロリダ出身なんだけど、両親は亡命キューバ人なんだ。祖父母は今でもキューバに住んでる。さらに僕は、大学院の研究テーマでキューバを選んでる」

「なるほど」

「ビザ取るのは大変だけど、来てみれば家族もいるし、田舎に帰る感じ。アメリカ人だからって敬遠されたりもないよ」