創立130年を超える歴史を持ち、国内外を問わず様々な分野で活躍する卒業生を多数輩出している早稲田大学。全国的にも抜群の知名度を誇るこの大学に、国際社会に貢献するビジネスリーダーを輩出することを目指す大学院がある。それが、早稲田大学ビジネススクール(WBS)だ。1973年にビジネススクールの前身となる組織が発足して以来、40年余りにわたり、社会の流れに合わせてその形を変えつつプログラムを拡充し、多くのビジネスパーソンを輩出してきた。

 この早稲田大学ビジネススクールが、今年の4月に大きな変革を行った。独立した二つの専門職大学院であった「商学研究科ビジネス専攻」と「ファイナンス研究科」を発展的に統合し、新たに「早稲田大学大学院経営管理研究科」としたのだ。統合前の二つはどちらも毎年多くの社会人が集まる特色ある大学院であったが、融合した先には何が見えるのか。「一言で言えば、規模と質の両立と強化です」と話すのは、前経営管理研究科長の根来龍之氏だ。

早稲田大学ビジネススクール前経営管理研究科長
根来 龍之 氏

 

経営とファイナンスの融合した先 
-今一番の魅力はどこにあるのか-

 元々あった2つの専門職大学院は、それぞれの分野において日本でも屈指の存在であったことは間違いない。それらを融合し、満を持して再出発する理由である「規模と質」とは一体どういうことなのだろう。
「一つは学生です。規模とは学生の数、質とは学生の質であると同時に、常勤教員の数と質のことでもある。今年度の春入学の志願者数は、合格者の3倍に迫る勢いでした。これは日本のビジネススクールでトップクラスの倍率です。その中から選抜していますので学生の質は高くなります。教員についても、40人を超える常勤教員数は、日本のビジネススクールでは圧倒的な優位にあります。しかもアカデミックな世界で業績がある教員、実務家の教員、両方の世界を知っている教員がうまく混在しています。この2つの「規模と質」が経営管理研究科の大きな特徴であり魅力なのです。」と根来氏は説明する。

「ビジネスの世界では、知識だけではなく人脈も大変重要になります。早稲田大学ビジネススクールが持つ「規模と質」は人脈ネットワーク形成にも大変有益です。例えば在学中に起業する人は、ビジネスをする上で不可欠な最初の顧客もここで見付けることが多いのです。幅広い人脈を通してちょっと相談をしてみたり、業務連携の話を持ちかけたりしやすいという環境がここにはあります。また、2つの専門職大学院の教育内容に相互補完性があったことが統合に至った理由です。ファイナンスはビジネスの重要な部門であり、学問の本質として別物ではない。統合前のビジネススクールにはMBAの重要分野である「ファイナンス」の科目や教員が不足していました。ファイナンスに詳しくない経営者は成功しません。一方、ファイナンス研究科にはファイナンス以外の分野のビジネス科目がほとんどありませんでした。ファイナンスのプロになる人以外にとっては、実際の社会に出るとファイナンスの知識だけでは足りません。企業のCFO(最高財務責任者)はファイナンスの知識だけでは務まりにくい。統合することにより、ビジネススクールとしてあるべき姿になったと言えるでしょう」。

新しくなった早稲田大学ビジネススクールの滑り出しは、順調だと根来氏は言う。「我々が強みとしている規模と質は、二つの大学院の統合によってさらに強化された。従来のプログラムへの応募者数も増え、前年から30%程度も増加した」。これはまさしく統合が魅力的だったということではないだろうか。
 

専門を磨きつつ、専門外の言葉を知る 
-自分の能力を強化する場所-

 統合によってさらに強みを増した早稲田大学ビジネススクールに通うことは、ビジネスパーソンとして一段上を目指す人にどのような力を与えてくれるのか。根来氏は、とても大きな意味を持つと言う。「海外企業のCEOのうち約1/3がMBAホルダーであり、グローバルな経営になるほど経営の専門知識が数多く必要になる。そこで、我々は講義を通じて経営幹部が持つべき「仕事の共通語」を提供している。内部昇進で身につく企業内知識とは別の、経営のための「普遍的な知識」が身についていないビジネスパーソンが日本企業には圧倒的に多い。もちろんどちらが大事というものではないです。一番良いのは、業界や企業内の特殊な知識・経験に加えて、経営の普遍的な知識をしっかり持つことです」。

 

日常の業務で得ることのできる知識・経験に普遍的な知識を加えることは、ビジネスパーソンとしてどんな力となるのか。根来氏に具体例を示してもらった。「端的に言えば、キャリアチェンジに役立つ力だということです。ここでいう『キャリアチェンジ』は企業内昇進を含むのでキャリアアップといった方がわかりやすいかもしれません。もしビジネススクールに通わなければ、キャリアアップには常識的なパターンがあります。例えば企業内昇進でいうと、開発エンジニアだった人が普通はいきなり事業計画担当にはならない。しかし、早稲田ビジネススクールで学ぶことで、たとえば『経営計画能力』や『財務処理能力』を強化できます。それによって、MBAを取得することにより、ふさわしい場所がより多く開けてくる確率が高まるのです。セオリー通りのパターンから外れて、そして早く昇進する確率が高くなるということです」。
 

目指したくなるロールモデルを輩出したい
-世界から目指される大学院に向けて-

 長い歴史で培った「規模と質」という強さを、二つの大学院の統合によってますます磨き上げた早稲田大学ビジネススクール。これから先はどのような未来を目指しているのか。根来氏はまだスタートしたばかりだと笑いながらも語る。「まずは日本の中で明確にトップのビジネススクールだと言われるようになることです。そして、その先にはアジア圏でトップグループに入るのが目標です」。ビジネスの世界はすでに国際競争が激しさを増している。となるともちろんこれから中核を担うことになるビジネスパーソンを育てるビジネススクールも国際的な競争になるという。

「今はまだ<日本>がアジアの中で競争力を持っている状態、つまり日本社会や日本企業へ憧れも持つ人が日本の大学にも集まってくる。しかし、日本企業の相対的地位の低下は避けられない。となると、日本のビジネススクールの顧客基盤は細くなっていく可能性がある。たとえば、すでに英語プログラムでは、我々か香港の大学かで迷う人も出てきています。これからの展望として、少なくともアジア圏の中でトップクラスに入っていないといけないという危機感を私たちは持っています。ビジネススクールの世界ランキングが世の中に幾つかありますが、日本のビジネススクールは実力以下に評価される傾向があり、順位が結果として高くない。その状態では、今後、日本企業のアジアの中での相対的競争力が下がるとビジネススクールにも影響が及ぶことになりでしょう。つまり、やがて優秀な留学生が減っていく可能性がある」。

世界ランキングの順位を上げるには、ただ教育力を上げれば良いというものではないらしい。そこにはランキングに使用されている指標が大きく関わっている。「表面的なランキングと学校の実力はイコールでない。大学でいうと、偏差値の高い低いと教育の質は別物です。ビジネススクールのランキングも似たような性質があり、ランキングが教育能力を示すものではありません。あるランキングでは修了3年後の修了生年収伸び率や、入学前と修了後を比較した年収伸び率といった指標がダイレクトに調査されています。終身雇用が大企業のコアとなっている日本では労働市場の構造としてMBA取得後もすぐ年収アップにつながるようになっていないので、ランキング上は不利になる。そこで、数あるランキングの中でも教育能力に直結する指標がより反映するランキングを狙って、順位を上げていくことが今後は重要になるでしょう」。


将来的にアジア圏のビジネススクールの中から、志望者にとって魅力があると思われるには、もちろん早稲田大学ビジネススクールを巣立った修了生の活躍も欠かせない。「修了生には早く昇進して欲しい」と根来氏は断言する。「日本社会においてMBA市場がなかなか拓けないのは、具体的なキャリアパスにMBAの取得が入っていないからです。ロールモデルが少ないわけです。例えばアメリカで大統領になりたい人はロースクールに入って弁護士を目指そうと思うでしょう。これは多くの大統領や議員や知事が弁護士出身だからです。また日本の高校生が小説家になりたかったら、村上春樹さんが卒業した早稲田大学の文学部に入りたいと思うかもしれない。明確なロールモデルがあると、人はロールモデルのキャリアをなぞろうとする。ということは実業界で成功している人の中にMBAを取得している人、さらには早稲田大学ビジネススクールの修了生が増えれば、結果として志願者も増えるはずです。アジアの企業においても、我々がロールモデルになりえる卒業生をより多く輩出すれば我が校への志願者は増えるはずです」。

早稲田大学ビジネススクールの特徴である「規模と質」は、学校の強さだと言える。「規模が大きい」ということはロールモデルになりそうな人の数が多いことを意味し、「質が高い」ということは、その人がロールモデルになる確率が高いということに通じる。根来氏の話す「ロールモデルを生み出すこと」がビジネススクール成功のポイントだと考えるならば、早稲田大学ビジネススクールが両立させようとしている「規模と質」という特徴は、大きな強さになるだろう。
 

<取材後記>

 ビジネスを学ぶ上で必要な人脈形成において、早稲田大学ビジネススクールはとても大きなアドバンテージを持つと感じた。それは、在学中に接する人の数が多いこともあるが、もう一つはやはり「早稲田大学」という歴史と伝統を持つ学舎が持つ価値があるだろう。これからアジア、さらには世界の中で目指されるビジネススクールになるべく、どんなロールモデルを輩出するのだろう。取材を終えた今から楽しみだ。


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