「ハリウッド」と聞いて、皆さんは何を連想するだろうか。きっと映画の都を思い浮かべる人が多いにちがいない。しかし、ここで紹介するハリウッドはちょっと違う。もしかしたら“デジハリ”という略称の方を目や耳にしたことのある人が多いかもしれない。ビジネス、クリエイティブ、ICTの3分野を軸とした教育を受けることができる専門職大学院、それが「デジタルハリウッド大学大学院」だ。

一般的にはデジタルクリエイターを育成している学校というイメージが強いのだが、実際はそれだけでない。「ここはビジネススクールのコンテンツ産業版、といった感じです。デジタルコミュニケーションを制することは、これからの世界において全ての産業界で活躍できる人間になるということ。ここで学んだことはどんな産業にも展開できるし、新しいビジネスを作るきっかけにもなる。これからの社会で戦っていくために、必要不可欠な武器を身につけてください、という学校なんです」と学長の杉山知之氏は語る。

デジタルハリウッド大学大学院
学長 杉山 知之 氏

 

ビジネス×デジタルコミュニケーション・ICT=?
-目的達成の手段として捉えるビジネス-

 今や街中にはスマートフォンを持った人が行き交い、パソコンだけでなく家電までインターネットにつながるようになってきた。もはやデジタル技術と私たちの生活は切っても切れない関係にある。しかしデジタルハリウッドが生まれた1994年は今と全く違っていた。「1994年のクリスマス商戦はプレイステーションとセガサターンで盛り上がり、翌年がWin95の登場。まだCGアーティストなんて世の中にほとんどいない、そんな時代でした」と杉山は笑いながら話す。

小さなパソコン教室程度の規模から始まった学校だが、創業当時からすでに大学院を作ろうと考えていたという。「最初はデジタルコンテンツ作りのファンを増やすというイメージでした。楽しいじゃん!すごいじゃん!これで飯食うぞ!という人を増やすなかで、次には大学院レベルの研究をする場所が必要になると信じていました。」1987年から3年間のMITメディアラボ客員研究員の経験から、杉山氏は来る21世紀にはデジタルコミュニケーションで世界に変革が起きることを確信していたのだ。

とはいえ、ここデジタルハリウッド大学院は専門職大学院である。デジタル技術だけでなくビジネスを生み出す術も習得することができるのだが、デジタルハリウッド大学院が考えるビジネスとはどんなものなのだろう。「他のビジネススクールとはスタンスが大きく異なります。ここでは、デジタルコミュニケーションやICTを使って何かを実行するための手段と考えています。実現させたいものを継続的、かつ拡大させるために必要となるものとしてビジネスを学んでもらっています」と杉山は言う。もちろん座学だけではなく、実際にビジネスを興すサポートも行っている。

杉山氏はこう話す。「これぞと思う時は、少額ですけど資本金を入れたりします。学生のスタートアップは無名なものがほとんど。そこでデジハリが株主に入っていたら少しは役立つだろうと。ここではやるべきことをやっていたら次々に起業家が生まれているし、スタートアップを作り続けるのはひとつの使命になっていますね」。経済産業省が今年4月に公表した「平成27年度大学発ベンチャー調査」によれば、「大学別大学発ベンチャー創出数」においてデジタルハリウッド大学院が11位(私学中では2位)にランクインしているところからも、実践的なサポート体制が垣間見える。
 

「今ないものを作る、先に面白いものを作る」
-デジタルハリウッド大学院の文化とは? -

 デジタルハリウッド大学院では、修了すると「DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士」という学位が取得できる。デジタル技術とクリエイティブな発想力、コンテンツマネジメントで新しい産業や文化を創造する能力を証明する学位で、日本ではここでしか取得できない。

「ICTとビジネス、そしてクリエイティブ。この3つの資質をちゃんと持ってないとここから先のリーダーにはなれない、というのが開学時からのコンセプトです。在学中は様々なカリキュラムを選択してもらうのですが、他のビジネススクールと比べると選択の自由度が広い。クリエイティブ関連ばかり選択する人もいれば、ビジネス領域を強化したいという人もいます。在校生の割合は、社会人:内部進学:留学生が1:1:1になっていて、特に社会人の学生においてはすでに専門的なスキルを持って入学する人も多い。そこで、発想の転換や新たな発見のためにも、自分が見たことない世界に関する科目履修をお薦めしています」と杉山は話す。

また、デジタルハリウッド大学院が持つ文化にも大きな特徴がある。その一つが、学校内外の人のつながり方だ。「修士号を取得した学生の中には、まだ面白いことができそうだということで、修了してからも仕事外の時間を使って引き続き学校へ来る人がいます。だったらもう研究員になってもらいましょうということで、引き続き研究を続けてもらうケースもあります。また、それを聞きつけた学校外の人と繋がって、何か面白いことしませんか…という話が始まったりして。実際に企業と契約してプロジェクト化するという話もあります」と杉山氏は嬉しそうに話す。この学生、教員、そして外部の人とのフラットな関係性は他にない特徴だ。ここでは学校医さえも就任後に「デジタルヘルスラボプロジェクト」を立ち上げて、グループを率いているという。


「持っている夢の大きさは関係なく、『未来を明るくしたい』人に来ていただきたい。後ろばかり向く人に来られても仕方がないです。コンピュータはこれしかできないとか、インターネットの誕生で人類が不幸せになったとか言われることもある。そういう側面があるのはもちろん承知の上です。現実的には困難だという確証がいくらあったとしても、熱意を持って行動して欲しい。少しだけ学長っぽいことを話すと『未来を明るくする手法』として、一人一人を丁寧に育てていこうとしているわけです。それもあらゆる産業に対して。私も未来を明るくしたい一人ですし、そんな人が増えたら、社会は楽しくなりそうでしょ?」と杉山氏は続ける。
 

そのビジネスは、世界を幸せにしているだろうか。
-一人ひとりのイノベーションが生む革命-

 世間的にはデジタルクリエイティブやICTのイメージが強いデジタルハリウッド大学院だが、この学校が考えるイノベーションとはどのようなものなのだろう。「それはズバリ『誰かを幸せにするもの』です」と杉山氏は断言する。「世界には信じられないくらいの計算スピードを持つコンピュータが膨大なメモリを持ち、それを数十億人が使って大量のデータがやりとりされている。『さて、次はどうする?』というのが現代です。でもみんながスティーブ・ジョブズにはなれないですよね。そこで、まずはそれぞれの手が届く範囲で何か一つ問題解決をしてみようというのが、デジタルハリウッド大学院が考えるイノベーションです」。

実際に在学中のイラストレーターが、日常業務で多くのデバイスを使い分けなければならず不便だということで、ペンタブレット以外のいろいろな作業を1台でこなすことのできる「左手デバイス」を作ったという。「このたったひとりの思いから始まったイノベーションは世界中のイラストレーターを幸せにします。もちろん、いきなり産業構造を変えてしまうようなイノベーションではないですが、こんな人が各業界からそれぞれ出てきたら、全体がちょっと良くなるはず。同じような一人ひとりのイノベーションが世界中で集まれば、それはもはやレボリューションと呼べるのではないでしょうか。目指すのはそこです。」


つまるところ、デジタルハリウッド大学院に入学すると身につく力とは、個々人の想いやアイデアでイノベーションを起こせるようになる能力だと杉山氏は言う。「もちろんここではビジネスの知識もICTの細やかな技術も教えている。それらの積み重ねの上でいろいろ考えて悩むと、あなたのイノベーションが一歩進められるという実感を持ってもらいたい。大学院に入ってすぐに会社をおこす人もいれば、すでにスタートアップを経験したけど、足りないものを感じてここに来る人もいる。全員がとんでもないハイレベルなことをやっているわけではなく、ちょっと勉強したら追いつけそうな「半歩先」のものもある。本当に多種多様な人が集まっているからこそ『じゃぁ自分も』と、その気になれるじゃないですか。技術がすごいのではなく、それをビジネスへつなげる最初の1歩を踏み出せるかが重要なんです」

デジタルと聞くとつい「自分は一般的なデジタルリテラシーは持っていると思うが、あまり最先端な話はついていけそうにない」と感じてしまう人も多いのではないか。しかし、一昔前と比べたら研究者しか扱えなかったような「ハイテクノロジー」も、今や一般人が触れる一歩手前あたりまで近づいてきている。もしかすると、デジタルコミュニケーションの先端に半歩踏み込んでみれば、あなたのすぐ横にイノベーションのチャンスは転がっているのかもしれない。
 

<取材後記>

 最後に「修了生にはどんな社会人になってほしいか」と杉山氏に尋ねたところ、「今の18歳の子が憧れるようなロールモデルになってほしい」という答えが返ってきた。目的なく大学に入って同じように就活をして…ついつい周囲を気にするがあまり思考停止して流されてしまう人が多い昨今だからこそ、未来志向で“刺激的な大人”を育てたいという意思を強く感じた取材となった。


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