メッセージは「メンテナンス」

 国内のコンテナの9割以上を取り扱う国内最大港であるヤンゴン港からフェリーに乗り、3階部分で風に吹かれながら眺めを楽しむこと約10分。川に向かって突き出す屋根が2本、見えてきた。

 1日に約3万人ものフェリー乗客が利用するダラ桟橋だ。岸に近付くにつれて次第に大きくなる青い屋根を眺めているうちに、7年にわたって展開されてきた1つの技術協力が終わろうとしていることに対して、突如、得も言われぬ感慨が込み上げてきた。

 2008年5月2~3日、この国に来襲したサイクロン「ナルギス」によって、南西部のデルタ地帯を中心に14万人弱の死者・行方不明者が発生。被災者も240万人に上るなど、甚大な被害がもたらされた。

 ここヤンゴン港も、瞬間最大風速60メートルの暴風と高潮によって99隻の船舶が沈没。未曾有の大災害による被害から早急に復旧を図るため、日本は翌2009年よりヤンゴン港とデルタ地域までの内陸水運施設の復旧と能力強化に向けた協力を開始。

 以来、今日まで脈々と続けられてきた支援が2015年12月、ついに最後の節目を迎えていた。これまでの協力の集大成として現場と教室で2日間にわたり実施された最後のトレーニングのテーマは、「メンテナンス」だった。

 「この機械を使ってコンクリートに打撃を加え、返ってきた衝撃の反射の強さを測ることで、コンクリート建造物を破壊することなく強度を測定することができます」

 「衝撃が来た時の数値を読み取って記入してください」

 この日、ヤンゴン川のほとりには朝から元気な声が響いていた。桟橋の下にもぐり、日本工営インフラマネジメント事業部アセットマネジメント技術部次長の松山公年さんからシュミットハンマーと呼ばれる機械を手渡されたミャンマー港湾公社と内陸水運公社の職員たちが、順番に突起部分を壁に当て、恐る恐る押し込んでいく。

 ポーンという衝撃が来るたびに「わぁ」っと歓声が上がる。と、「もっと壁に直角に当てて」「まっすぐ押して」と松山さんから指示が飛んだ。言われた通りにシュミットハンマーを構え直しながらも、皆、楽しそうだ。

 「OK!できたね」と声をかけられると、白色のヘルメットの下で笑顔がはじけた。