2015年、シリア内戦による死者は5万5000人以上を数えた。アフガニスタンでは3万人、イラクでは2万人、ボコ・ハラムの暴力による死者数も1万人を超える。

 各地で武力紛争は絶えず、「メキシコ麻薬戦争」でも、8000人以上が犠牲となっている。2006年末、フェリペ・カルデロン大統領(当時)が「対麻薬組織戦争」を宣言して以来、死者数は6万とも15万とも言われ、2011年、2012年には世界最多を記録している。

 あまり伝えられることのないそんな現実を描く『カルテル・ランド』(2015)が、先週末から劇場公開されている。

 メキシコ国内と米国のメキシコ国境地帯の「自警団」を追うドキュメンタリーは、サンダンス映画祭で監督賞・撮影賞を受賞、アカデミー賞でも長編ドキュメンタリー賞候補となっている。

自警団がカルテルを撃退するが・・・

 退役軍人フォーリーは、「アリゾナ国境自警団」を率い、武装し、国境周辺をパトロールしている。「麻薬や暴力の流入、不法入国を防ぐ」ためとする彼らの行為を、「過激」「人種差別的」と非難するメディアもある。

 メキシコ、ミチョアカン州では、麻薬のみならず、暴行、殺人、誘拐などが横行、農家や事業主などから「みかじめ料」を取るカルテル「テンプル騎士団」が市民を苦しめているが、政府も警察もひどく腐敗し、信用できない。

 1人の医師が、「政府が住民を守らないのなら、命と家族を自ら守る権利がある」と訴え、自警団を結成、街をカルテルを撃退していく。しかし、次第に自警団自体が変性、カルテルと変わらぬ無法行為を働く者も出てくる。

 もともと、あらゆる職種、階級、行政や警察にも、カルテルは浸透している。自警団も例外ではない。

 そして、本来違法である自警団を連邦政府は合法的「地方防衛軍」として取り込み、従わぬ者は逮捕。ボーダーラインは至るところであやふやとなっていく。

 米国で「フラワーチルドレン」が一大ムーブメントとなった1960年代後半、愛と平和を語るヒッピーが吸う大麻の多くはコロンビアからのものだった。そして、70年代~80年代、コカインの密輸でコロンビアのカルテルは力を増した。