中学生の頃から僕は「サラリーマンは無理だ」と思っていた。そう思ったきっかけは覚えていないが、そういう意識でいたことは覚えている。だから、大学なんて行っても仕方ないと思っていたはずなのだが、他にやりたいことも、なりたいものもなかったため、流されるままに進学した。決断を先延ばしにしただけだった。

 大学3年ともなると、さすがに将来のことを考えなくてはならなくなった。いよいよ先延ばしすることもできなくなり、僕は大学を辞めた。就職活動をしない理由を自分の中で正当化するには、それしかないような気がしたのだ。

 結局、就職活動も転職活動も一度もすることなく、どうにかここまで生きてきた。「サラリーマンは無理だ」と中学生の頃に抱いた感覚は、いまだに消えていない。そんな風だから僕は、サラリーマンとして生きる真っ当な人生以外の選択肢に、惹かれることが多いのだろう。

 きっと、今サラリーマンとして生きている人にも、そんな思いを抱き、葛藤している人もいるかもしれない。サラリーマンだろうがなかろうが、自分の生き方を肯定できずにいる人もいるかもしれない・・・。

 今回は、新たな世界に飛び出す勇気を与えてくれる3冊を紹介します。

スタートに選んだのは、問題山積みの町

僕たちは島で、未来を見ることにした』(阿部裕志・信岡良亮、木楽舎)

『僕たちは島で、未来を見ることにした』(阿部裕志・信岡良亮、木楽舎、1944円、税込)

 島根県・隠岐諸島の1つ、中ノ島に位置する海士(あま)町。町ぐるみの町おこしが全国的に注目されているその島に、会社を辞めて移住した2人の男がいる。

 2人は「株式会社 巡りの環」という会社を島で立ち上げ、島外からの移住者を増やすための取り組みを始めた。

 これは「持続可能な社会」をつくる一員となるために、そして、そんな社会で稼いで生活し続ける実践者となるために、都会の生活を捨て、海士町で起業した2人の若者たちの起業から5年間の戦いを描いた作品だ。

 巡りの環の代表取締役である阿部裕志は、京大卒でトヨタに入社。そのトヨタを辞めて海士町にやってきた。トヨタよりも魅力的な何が、この島にあったのか?