全要素生産性とは要するにイノベーションのことなので、人口減少によるマイナスの影響を上回る画期的なイノベーションが強く求められているという解釈になる。

アベノミクスが成功すれば高い生産性は実現可能なはずだが・・・

 経済産業省では、ロボットや人工知能などをフル活用することによって、イノベーションを活発化させ、潜在成長率を上昇させるというシナリオを描いている。これは経済産業省が勝手に想像しているわけではなく、安倍政権がそのような経済成長シナリオを掲げていることを前提にしたものである(もっとも、アベノミクスの青写真を描いたのは経済産業省なのだが)。

 安倍政権は、アベノミクスが成功した場合、名目で3%程度、実質で2%程度の経済成長が実現するとしているが、このシナリオを現実のものにするためには、各種のイノベーションを活発化させることが必要であり、これを実現するための施策が成長戦略ということになる。また、女性や高齢者が労働市場に参加し、労働人口の減少に歯止めがかかることが大前提となっている。

 内閣府では、名目3%、実質2%の成長が実現できた場合の長期的な経済財政予測を発表しており、厚生労働省もこれをベースに労働力人口の将来推計を実施している。今回の試算における労働力人口の予測もこれに準じたものと考えてよい。

 その結果、経済がうまく再生すれば、2030年には名目GDPは800兆円を突破することになる。人口の減少は女性や高齢者の労働市場への参入で緩和され、ロボットやAIの導入によって生産性が大幅に拡大することで、プラス成長を維持できるという筋書きである。

経済規模が拡大すれば、仕事の数は増える

 要約すると、経済産業省のシナリオでは、ロボットとAIがフル活用されることで潜在成長率が上昇し、成長率の高まりによって所得が増えて需要も増加し、最終的には仕事そのものが増えるという流れになっている。確かにロボットやAIの導入で消滅する仕事も存在するが、仕事の絶対量はむしろ増えるという考え方だ。

 これに対してオックスフォードの推計は、こうしたマクロ的な状況は考慮に入れず、個別の仕事がどれだけロボットに置き換わるのかについて分析したものである。その結果、多くの仕事がロボットに置き換わり、仕事が消滅するという結論が導き出されている。

 経産省の試算でも、仕事の内容を個別に分析した部分では、当然のことがら、仕事がなくなる分野と増える分野がくっきりと分かれている。