「That's too harsh(それって、厳しすぎるよ!)」――。マレーシアの最大紙「ザ・スター」(英字紙)は紙面を大きく割き、日本の桃田に対する処分決定に批判的な記事を掲載した

文中敬称略

 リオデジャネイロ五輪で金メダルが期待されていた世界ランキング2位のバドミントン選手が不祥事で五輪出場が見送りになるという前代未聞の事件は、日本のスポーツ界および日本社会を大きく揺れ動かす問題に発展し、国際社会にも波紋を呼んでいる。

 しかも、私生活に至るまで批判を受ける日本の「集団いじめ構造」は、かつて日本初のメジャーリーガーで日本人選手に大リーグの道を切り開いた「野茂騒動」を髣髴させるほどの深刻さだ。

 言い換えれば、今回の「桃田事件」が一方で、日本のスポーツ界、ひいては日本の社会風潮の暗部を炙り出し、将来的には日本が“痛い代償”を支払う結果を引き起こすかもしれない危険性をも帯びているのではないだろうか――。

 海外でも人気の高い日本男子のバドミントン選手の桃田賢斗(21)と2012年ロンドン五輪代表の田児(たご)賢一(26)が、日本で違法な闇カジノ店でバカラ賭博をしていた問題で、日本バドミントン協会は、桃田を五輪強化指定から外し、無期限の試合出場停止処分にするとともに、田児も永久追放を意味する「除名」に次ぐ重い処分である無期限の協会登録抹消を言い渡した。

世界のメディアも注目

 日本の新旧エースの事実上のコートからの「強制退場」の衝撃ニュースは世界のメディアもこぞって報道したが、とりわけ注目を浴びたのは世界の頂点にまで登り詰めた桃田の処遇だった。金メダルが期待されたリオデジャネイロ五輪への出場も断たれたからだ。

 桃田は昨年の世界選手権で日本勢では初の男子シングルス銅メダルを獲得。さらには、昨年末には、世界上位8人で戦う「スーパーシリーズファイナル」で、これも日本男子として初めて優勝した。

 日本の長いバドミントンの歴史を塗り替えただけでなく、近年、中国勢がバドミントンのすべての競技を席巻する状態が続いていた中、桃田の頭角は、「バドミントン界の錦織」と昨今、中国勢の劣勢に甘んじるマレーシア、インドネシア、タイなどのバドミントン強豪大国からライバルでありながら好意的に受け止められていた矢先だった。

 折りしも、桃田の不祥事は、マレーシアで行われていたスーパーシリーズプレミア「マレーシア・オープン」で1回戦を突破した直後発覚。皮肉にもこの日、桃田は世界バドミントン連盟(BWF)から発表された世界ランクで2位に浮上したことも重なったことから、日本に急遽帰国した桃田の去就を、各国選手団が見守っていた。

 中でも、男子バドミントンが中国、インドネシア、韓国を追い上げる強豪で、サッカーと並んで国民的スポーツであるマレーシアでは、スーパーシリーズの開催国ということもあって、メディアや選手が桃田の動向を追った。

 もともとバドミントンは英国が発祥で、南西部のグロスタシャーにあるバドミントン荘という邸宅で始まったことから、そう命名され、スーパーシリーズの全英オープンは今でも最も権威のある大会で知られる。

 同大会制覇者で、2008年から2012年まで世界ランキング1位をキープし、長年世界王者に君臨。北京、ロンドン五輪の銀メダリストでアジアをはじめ、英国など欧州でもスーパースターで知られるマレーシアの国民的英雄のリー・チョンウエイは、桃田の処遇に批判的なコメントを発表し、注目を集めている。

 その背景には、複雑な彼なりの経験に基づく心境もあるようだ。