事件の概要はこうだ。山口組傘下の倉本組との抗争の最中、清勇会の組内で孤立した組員が、暴走気味に倉本組組員の出入りするキャッツアイというラウンジを襲撃。勤めていた一般人女性が、流れ弾に当たって死亡した。逮捕された組員は、襲撃は川口の命令によるものだと供述をする。

 映画ではさらりと流されている川口の出所の場面。ヤクザにとって懲役は日常の延長のように描かれているが、どのような事件で罪を問われたのかが気になって調べてみたところ、1冊の本にたどり着いた。

冤罪・キャッツアイ事件―ヤクザであることが罪だったのか』(山平重樹著、筑摩書房)

『冤罪・キャッツアイ事件―ヤクザであることが罪だったのか』(山平重樹著、筑摩書房、1800円、税別)

 そのタイトルからなんとなく想像はついていたが、読んでみて仰天した。襲撃事件を起こした組員本人が、後に川口への逆恨みと警察の甘言にのったことを認め、供述を翻しているという。川口は無実の罪で22年もの長きにわたり服役していたものと思われる。

 背景として当時、暴対法成立に向けて世論を味方につけたい警察は、親分である川口の刑事責任を問おうと、実行犯を懐柔し、虚偽の供述を取り付けるという暴挙に出た。

 仮にその供述が正しいとすると、事件当時は入院中の川口が所要時間約40分の距離を、誰にも気づかれることなく病院を抜け出して、正味10分ほどで移動しなければならなければならないが、川口ならば可能だという無茶苦茶な理屈だ。

 また、取り調べを担当した刑事は警察を辞めた後、どれほどでたらめな捜査が行われたかということを、法廷で証言してもいいと申し出たという。しかし、それらはすべて無視され、川口の有罪は確定した。

 こういった警察の横暴は、映画の中でも家宅捜索を居丈高に行う様子などによって印象付けられ、観る者に疑問を投げかける。にわかに信じられなかった私は、警察の実態を知ろうと何冊かの本に手を伸ばした。そのなかでも、ためになったもの数冊をいかに紹介する。

 なお、本書『冤罪・キャッツアイ事件』は川口の人となりを、その生い立ちも含めて丹念に取材しており、いささか川口寄りの構成ではあるものの、「ヤクザと憲法」を観た人は例外なく楽しめる。映画の理解に奥行きを持たせる、格好のサブテキストとして自信を持っておすすめする。必読。

「警察が正義をよりどころにしてはいけない」

 映画の中でスポットを当てられている清勇会のヤクザたちとは別に、作中で主要な役どころを担うのが、弁護士の山之内幸夫だ。

 実録映画を声高にうたうきっかけとなった、本作品のもう1つの柱として取り上げられている彼は、過去において山口組の顧問弁護士であり、その裏側も知る人物だ。余談だが、当時の顧問料は月10万円と決して高くないことが映画では明かされており、あまりの安さに正直面食らった。

 山之内本人の生い立ちにも触れながら、どうしてヤクザを弁護するに至ったのかを語る場面が、個人的にはとても印象に残った。