美味しい卵料理の秘密は「テクスチャー」にあった!

卵料理、その多様化の秘密を探る(後篇)

2016.03.18(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要
卵料理には無数のバリエーションがある。どうしてこうも卵は姿を変えられるのか。

 日本人がほぼ1日1個、食べている卵。生で、茹でて、焼いて、混ぜてから焼いて、炒めて、とじて、ほかの食材と絡めてと、じつに多様な食べ方がある。卵の食べ方はどうしてこうも多様なのか。前後篇でその秘密に迫っている。

前篇(「『卵、食べてもいいんだ』と気づいた日本人」)では、日本人と卵の歴史を追ってみた。仏教思想や因果応報の観念から日本人はあまり卵を食べてこなかったが、室町時代以降の南蛮菓子の影響などで卵を“解禁”するようになり、江戸から明治、大正の時代に卵の食べ方が多様化していったようだ。戦後には、卵の消費量も急激に上がった。

 後篇の今回は、卵の食べ方の多様性の秘密を、調理の視点から探っていく。

 いろいろな食べ方ができるのは、卵が調理のしかたでさまざまに姿を変えるからだ。では、どうしてこうも卵は姿を変えられるのか。その理由を聞きに、中部大学応用生物学部教授の小川宣子氏を訪ねた。小川氏は食生活の視点から卵を総合的に研究し、卵の美味しさとはなにか、美味しさを発揮するにはどうすればよいかを追究してきた。

「1日1個まで」に抑えなくてもよい

 本題の前に、心配事をすっきりさせておきたい。さまざまな食べ方ができるからといって、卵をたくさん食べても問題ないのだろうか。「コレステロール値が上がるため、卵は1日1個まで」と言われていた気がするが・・・。

「元気に過ごしている人が、全卵を1日に2個や3個、食べることは問題ありません」。小川氏はこう答えた。

小川宣子氏。中部大学応用生物学部食品栄養科学科管理栄養科学専攻教授。学術博士。1974年、お茶の水女子大学家政学部食物学科を卒業。同年、岐阜女子大学へ。家政学部教授、食文化開発支援センター長などを務める。2011年、中部大学教授に。日本学術会議第二部会員を兼務。調理を科学的、文化的に研究する学術団体、日本調理学会の監事も務める。同学会は2016年8月28~29日、名古屋芸術大学で「平成28年度大会」を開催予定。公開シンポジウム「なごやめしとは」や、講演会「さまざまな視点から調理科学を研究する」などを実施する。

 卵を1日1個以下に抑えないとコレステロール値が上がるという説は、約100年前、ロシアの実験でウサギに卵を食べさせたところ血中コレステロールが増加する結果が出て、これが巷で流布したもののようだ。

 草食動物のウサギでの結果は、人間に当てはまるものではない。それに、全卵としてのバランスのよさも分かってきた。

「卵黄にはコレステロールが多く含まれますが、卵白のほうはコレステロールを抑制します。全卵を食べればコレステロール値は上がりません」

 コレステロールは細胞膜をつくるなど体に必要な側面もあり、体内でもつくられる。

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015年版」では、肝臓でコレステロールが合成されるため、コレステロールの摂取量が総コレステロール値に反映されるわけではないという理由から、コレステロールの摂取基準値が外された。

 どんな食べものでも大量摂取は体によくないが、脂質異常症などでなければ、卵を1日1個までに抑える必要はなさそうだ。

卵の「美味しさ」はテクスチャーが基本

 安心したところで、卵料理の多様性の秘密に迫っていきたい。

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。