――それでは、カタール経済の中心は天然ガスになるでしょうか。

細井:あくまで財政のベースは石油収入です。基本的にはカタール政府の財政は、石油だけも十分にやっていけます。

 ガスの儲けはソブリン・ウエルス・ファンド(SWE、政府系ファンド)で投資運用しています。カタールの場合には、カタール投資庁(Qatar Investment Authority:QIA)が余剰資産を海外運用し、原油価格の下落に備えています。

 ちなみに、世界でも運用額の大きいSWEはアブダビ投資庁(ADIA)ですが、QIAもADIAもファンドマネジャーのような実質的な権限を持つブレインは、イギリス人などの欧米からヘッドハンティングしてきた投資の専門家たちです。

 同様にサウジにも、サウジアラビア通貨庁(Saudi Arabian Monetary Agency:SAMA)があり、投資で日本の株式も買っていますが、原油価格の低下が著しい今は株を売却して、蓄えを切り崩している状態です。

――昨年から原油安が続く中、サウジはそれでも減産しないと表明しています。アメリカのシェールへの対抗・シェア確保のためとはいえサウジの内情は厳しいようですが、その点、カタールはどうでしょうか。

細井:カタールは国が小さく人口も少ないので、サウジほど切迫しているわけではありません。とはいえ、やはり油価低迷で財政収入減にはなっているので、これまで通りというわけにはいきません。カタール国内の建設プロジェクトの中止や見直しの動きも出ています。

強気の外交姿勢がW杯にも影響する?

――2022年のW杯開催にも影響しそうですね。

細井:もう1つ、W杯に向けたインフラ整備で懸念されているのが、カタールの強気の外交姿勢です。カタールは他の中東産油国と差別化を図るため、さまざまな独自路線を打ち出してきています。

 外交面においても、カタール政府は周辺国と違う立場をとることが多いのです。存在感を示す意味では小さな国が生き残る1つの戦略なのかもしれませんが、周辺国との不和が生じているのも事実です。

 例えば、エジプトで結社されたイスラム主義組織、ムスリム同胞団を巡っては、2014年にもサウジ、UAE、バーレーンの3国と対立しています。アラビア半島の6カ国が参加する湾岸協議会議(GCC)では同胞団を支援しないと同意したにもかかわらず、カタール政府そしてカタールのテレビ局「アルジャジーラ」の報道は同胞団寄りのものでした。

 しかし一方で経済に目を向けると、カタールのインフラ建設では、サウジのビンラディン・グループ(ビンラディン家が所有する複合建築企業)が多くの事業を手掛けています。また、ドバイの不動産を一番多く購入しているのはカタール人です。