震災の記憶を伝える福島の「ダークツーリズム」、さまざまな思い

東日本大震災から5年。駅舎が解体された福島県のJR常磐線富岡駅(2016年2月11日撮影)。(c)AFP/TORU YAMANAKA〔AFPBB News

『呼び覚まされる霊性の震災学――3.11 生と死のはざまで』』(新曜社)

 東日本大震災から5年、関連書籍の出版が相次いでいるが、その中で注目されているのが東北学院大学の金菱清(かねびし・きよし)ゼミナールが行った「震災の記録プロジェクト」をまとめた本(『呼び覚まされる霊性の震災学――3.11 生と死のはざまで』)である。

 指導教官の金菱清教授(専門は社会学)はゼミ生とともに、震災の被害者たちが「死者」とどう向き合ったのか、被災地で今なお起きていることなどを丹念に拾い上げ、マスコミが取り上げることを躊躇しがちな“不都合な真実”をも明らかにしている。

タクシードライバーは何を見たのか

 第1章は「死者たちが通う街~タクシードライバーの幽霊現象」だ。もともと輪廻転生などに関心があったゼミ生の工藤優花氏が卒業論文として執筆した。

 震災以降、被災地では怪奇現象の体験談が相次いでいるという。とりわけ死者の数が最多となった宮城県石巻市において件数が多く、ネット上でも大量の書き込みがなされ、話題となっている。工藤氏は大学3年生の1年間を通して毎週石巻市に赴き、「実際に幽霊をタクシーに乗せた」という経験を持つドライバーにインタビューを行った。

 工藤氏は客待ちの運転手をつかまえては「震災後、気になる経験はないか」と尋ねた。100人以上に質問したところ、多くの人は取り合わなかったり、怒り出したりした。それでも7人が不思議な体験を語ってくれたという(1月20日付朝日新聞)。