コソボ・プリシュティナのナイトクラブ(筆者撮影、以下同)

 旅は破壊である。なんといっても日常の破壊である。一日の過ごし方から始まり、お金の使い方、人との出会い方・話し方、ご飯の食べ方や夜の飲み方・遊び方・踊り方に至るまで、今まで自明だと思っていたやり方が気づくとそうではなくなって、混乱する。それから旅は居場所の破壊でもある。旅人には日々同じ場所に通う義務がない代わりに、昨日まで一緒にご飯を食べていた人は今日隣にいない。反復は消え、所属は消え、逆に自分の断絶と不所属が浮かび上がる。 

 バルカン半島の旅の途中である。旧ユーゴスラビアの国名をひとつひとつ確認しながら、私は半島を南下していた。セルビアからマケドニア・、アルバニアを経て、バスでコソボに入る。

 コソボの国境管理官はパスポートの余白ページにコソボ印の青いスタンプをぽんと押し、私はそれを腹巻にしまいながら、「ああ、これでセルビアには入りにくくなったな」と思う。アルバニア系住民の多く住むコソボ地域が、2008年にセルビアから分離独立宣言をした後も、セルビアは独立を認めておらず、今でも旧来の「自治州」扱いをしている。そんなわけでセルビアとコソボは今でも仲が悪い。なお日本は承認しているが、承認111カ国、承認拒否が85カ国と、国際社会はいまだに真っ二つだ(ちなみに国際司法裁判所の判断は「独立宣言は国際法違反ではない」)。

生々しい隣国への感情

 国境沿いのインターチェンジで、エスプレッソをごちそうしてくれたおばさんはコソボ現地の人、つまりアルバニア系の人だった。セルビアにも行ってきたと私が言うと顔を曇らせる。

「セルビアねぇ。まだコソボの独立を認めないなんて、なんて馬鹿げたことを言う国なんだと私たちは思ってる」