坂東太郎が展開するブランドの1つ、「かつ太朗」(写真提供:坂東太郎)

 ICT(情報通信技術)の進展により、企業経営がガラス張りになる「透明化社会」において、顧客に選ばれ続ける企業になるためには、確固とした経営理念・経営哲学が不可欠だ。

 そこで今回は前後編にわたり、大きな失敗を経て自社の事業を再定義し、確固たる経営理念を持つに至った会社2社をご紹介しよう。

しあわせを創造するファミレス

 初めにご紹介するのは、「ばんどう太郎」「かつ太郎」などのブランドで茨城県を中心とする北関東一円に70店舗(要確認)の飲食店を展開しているファミリーレストランチェーン、坂東太郎だ。

 会社名であり、チェーン店のブランド名でもある「ばんどう太郎」とは利根川の異称である。坂東(関東)にある長男格(日本で一番大きい川)という意味だ。そこには、幼い頃から利根川の恩恵を受けて育った、創業者である青谷洋治社長の想いが込められている。

 日本の外食産業の市場規模は、人口減少や少子高齢化に加え、価格競争の激化に伴う客単価の減少が要因で、1997年をピークに年々減少している。坂東太郎が属するファミレス業界も厳しい経営環境が続いているが、同社はその中でも異色の存在として着実に成長し、進化し続けている。

 その秘訣は、社員一人ひとりの心の「共育」をしっかりと行っているからだ。

 坂東太郎の社訓は「親孝行・人間大好き」。「親孝行」の「親」とは目上の人、上司、先輩、親などお世話になったすべての人のこと。企業が100年、200年と存続していくためには、働く人が誇りを持てる会社でなければならない。

 この会社の社員であることを周囲から尊敬され、社員がこれまでお世話になってきた人たちが、その社員のことを誰かに自慢したくなるような会社であること。つまり、「親孝行」できる会社であり続けなければならないのだという。

 同社には今、親孝行したいから働きたいという就活生がたくさん来るというのだから驚きである。

次々と辞めていくのは「幸せでない」から

 とはいえ、青谷社長も当初からこのような境地に立っていたわけではない。経営理念こそ創業時から「親孝行」で、目標は日本一になることであり、変わっていないが、当初は店舗数や売上で日本一を目指していた。