いつまでも美味しく食べ続けるためにも、歯はとても大切だ。しかし歯のケアについて、多くの人がもっている常識は果たして正しいものだろうか。前篇に続き、予防歯科や医療技術に詳しい歯科医に聞いた。

前篇では、「虫歯になったら悪くなる一方」という常識がくつがえされた。糖質と菌がもたらす酸によってカルシウムやリンが溶け出した歯を、唾液が再石灰化してくれる。この力を頼りにすれば、虫歯の自然治癒も可能だというのだ。

 今回、応じてくれているのは、埼玉県志木市で「ヒロキ歯科診療所」を開業している西野博喜氏だ。後篇でも引き続き西野氏に、歯の治療や、日々の歯のケアの“正しい方法”について聞くことにしたい。またしても私たちの常識はくつがえされるだろうか。

安易な虫歯の治療は再発を招く

――前篇の最後では「穴が空いたら即、歯医者で治療」かというと、そうとは思わないという話をされていました。穴が空くほど虫歯が進んでも、歯医者に行かなくて大丈夫なのですか。

西野博喜氏(以下、敬称略) 今すぐ痛みを取ってほしいという場合は、もちろん治療する必要があります。それと、ごはんを食べられなくなった場合や、歯の機能が失われたときも治療が必要です。

 しかし、そうした緊急性がなければ、急いで虫歯を治療すべきでないと私は考えています。安易な虫歯の治療は、かえって虫歯の再発を招くおそれがあるからです。

――どういうことでしょうか。

西野 歯を削って詰めものがされると、その部分では唾液による再石灰化が起きづらくなります。歯の詰めものは“絆創膏”とはちがって一生、詰めたままにします。これが歯の再石灰化を阻害するのです。まず、虫歯の原因を見定めたうえで対処しないと、詰めものをしてもすぐに再発してしまいます。

――歯医者に通う必要がある人は、歯医者選びをすることになります。どのように選べばよいのでしょうか。

西野 技術と倫理感を保持している歯医者であればよいのですが、そういう人を見つけるのは簡単ではないと思います。

 私からは、臨床系の学会に所属していること、その所属先が日本歯科医学会の認める「専門分科会」や「認定分科会」であること、「専門医」や「指導医」の資格をもっていること、その資格の取得者が学会の総会員数と比べて少ないこと、などを挙げたいと思います。

 でも、あくまでも目安です。学会に所属していなくても素晴らしい歯科医をたくさん知っていますが、一般の方には分かりにくいのが現状です。

西野博喜氏。歯科医師。明海大学歯学部卒業後、同大学病院口腔診断学講座入局。1994年、埼玉県志木市で「ヒロキ歯科診療所」を開業。日本顎咬学会指導医。日本歯内療法学会専門医・倫理委員会委員。また、日本科学技術ジャーナリスト会議理事を務め、日本医学ジャーナリスト協会会員でもある

プラーク除去に歯ブラシは役立たたない

――では虫歯を治すにはどのようにすればよいのでしょうか。