尖閣諸島での不法操業、海上保安庁船舶に対する業務執行妨害による船長の逮捕・拘留を発端とする日中関係の緊張については様々に論評されているので、私が改めて分析をするまでもないと思うけれど、その中で中国が日本に対して様々な圧力の1つとして「レアアースの『非公式な』輸出規制」を加えてきたことに絞って、少し詳しく現況を整理しておこう。

 巷間、あまりにも浅い話だけで済まされているのだが、これは今の、そしてこれからの日本にとって技術立国の「生命線」の1つになりうるほどシビアな問題なのだ。

 このニュースを見聞きして最初に私が思ったのは、「日本全体にとって一番厳しい所に手を打ってきた。中国の政府関係者は、今日のリアルな社会情勢を科学技術の分野まで広くよく見て理解している。日本とはずいぶん違う」ということだった。

 現在の日本にとって、中国からのレアアース(希土類)の輸入が止まったとすれば、それはものづくりから、国内だけでなく世界に向けた製品販売までの産業プロセスが「蛇口を締められて」行き詰まる状態に直結する。

 日本の政治家はそうした状況にとんと疎く、「何か大変なことになるらしい」「産業界がそう言っている」という程度の認識なのだろう。一応、「なんとかしないと」とは言ってみるが、この状況がしばらく続くと何が起こるか、具体的なシナリオは理解できていないことが見え透いてしまう発言があちこちで発せられていたようである。

 もちろんそれは大新聞、テレビといった「メガメディアによれば」であって、そのメガメディアもいつものように「レアアースは日本が得意とするハイテク製品に欠かせない」「そのほとんどを中国からの輸入に頼っている」という「決まり文句」を繰り返すだけであって、それがいったいどういうことなのかを「読み解く」リポートはほとんど見られない。

 もう何年も前から「日本にとってレアメタルとレアアースに関わるリスク」、特に「チャイナリスク」については、微妙なバランスが崩れただけで日本の技術立国プロセスそのものが立ち行かなくなるのは明らかに見えていた。

 これについて日本国内では専門の研究者と行政(主に経済産業省の一部)がそれを指摘し、対策の必要性を掲げてはいたけれども、社会全体としては、それが「国にとってのリスク」であることにも、そしてその「リスク対策」を急がなければならないことも、ほとんど誰も目を向けていなかった。しかし、中国はちゃんとそこを見ていたのである。

ハイブリッド車のモーターに使われる「ネオジム磁石」

 私の専門分野、自動車に限っても、ハイブリッド動力を含めた「クルマの電動化」において、レアアースへの依存度が高まる一方なのは、あまりにも明白だ。

トヨタ「プリウス」のモーター単体。左が第2世代、右が電池の電圧を昇圧させて(電気エネルギーの一部が熱に変わるが)出力を引き上げつつ薄型化した第3世代。周りにびっしりと銅線を巻いた電磁コイルを並べ、その芯に円筒状の回転子が入る。そこにネオジム+ディスプロシウム磁石が輪状に組み込まれている。(写真提供:トヨタ自動車)

 何より「ネオジム(Nd)」は、モーターの中核部品となる強力な永久磁石「ネオジム磁石」を作るのに欠かせない。

 普通の磁石は酸化鉄を主にした粉末を焼き固めたフェライトで作るのだが、そこにネオジムと、他にも微量の元素を混ぜて粒子の並びを揃えるなどしつつ焼結することで、強力な磁性体ができる。この原理は、1980年代に日本人(当時の住友特殊金属の研究者たち)が発明した。

 なぜそうした「強力」な磁石がクルマを走らせるためのモーターに欠かせないのか。

 モーターは磁力と電流をうまく組み合わせることで回転する。その原理はいろいろあるけれど、一般に使われているのは大きく分けて「直流ブラシ型」「交流誘導型」「直流同期型」の3種類である。その中で最近、電動車両や家電製品などに普及しているのは「直流同期型」。いわゆる「直流ブラシレス型」であり、「永久磁石・同期型」とも言う。