「虫歯になったら治らない」は間違っていた!

誤解だらけの“食と歯”(前篇)

2016.02.12(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 菌が酸をつくるには、材料がなければなりません。材料となるものが食べものに含まれる糖質です。糖質が、虫歯の間接的な原因ということです。糖質は、砂糖のほか、ごはんやパンなどの炭水化物にも多く含まれます。

――ダイエットや糖尿病対策で、糖質制限する人もいます。そういう人は虫歯になりにくいということでしょうか。

西野 いいえ。虫歯になるとされる糖質の摂取量はかなり少ないのです。年間20キログラムを超えると虫歯になりやすいという説があります。これは普通に食事をしている人はもちろん、糖質を制限している人でも超えてしまう量です。

――食べもの過多の時代背景も、虫歯と関係しているのですね。

西野 食生活が豊かになれば、当然、糖質の摂取量も増えて、口の中の酸の量も増えますから、虫歯になりやすくなります。

 一方で、食生活が豊かになって感染症への抵抗力がつくなどして寿命が伸びました。いまさら虫歯を減らす目的で食生活のレベルを下げるのは無理でしょうから、虫歯が生じないよう別な方法で対応を考えるべきです。

西野博喜氏。歯科医師。明海大学歯学部卒業後、同大学病院口腔診断学講座入局。1994年、埼玉県志木市で「ヒロキ歯科診療所」を開業。日本顎咬学 会指導医。日本歯内療法学会専門医・倫理委員会委員。また、日本科学技術ジャーナリスト会議理事を務め、日本医学ジャーナリスト協会会員でもある。

鍵は唾液にあり、虫歯は自然治癒する

――学校で「虫歯になったら悪くなる一方」と教えられた年代の人も多くいます。現在は、どのように考えられているのでしょうか。

西野 「虫歯は自然治癒するもの」と考えられています。

――「自然治癒」とは、どういうことでしょうか。

西野 唾液は酸を中和して口の中をほぼ中性にします。すると歯にカルシウムやリンが再び取り込まれ、同時に虫歯の修復作業も行われます。これを「再石灰化」といいます。虫歯の自然治癒とは、この現象のことをいいます。

 甘いものやごはんを食べると、2、3分後には菌が糖質を酸に変え、口の中の酸性度が高くなって歯が溶け出します。しかし、20分から40分ぐらいすると、唾液が酸性を中和していきます。唾液にはカルシウムやリンが含まれていて「再石灰化」が起きるのです。唾液が酸性を中性に戻す力を、「唾液の緩衝能」といいます。

――食事のたびに、脱灰と再石灰化が起きているわけですか。

西野 そうです。朝食で脱灰が起きた後に再石灰化が起き、また昼食で脱灰が起きた後に再石灰化が起き・・・と繰り返します。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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