(2015年12月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

「新幹線は日本のアイデンティティーの一部だから、売ろうとするしかない」とある政府高官は言う (c) Can Stock Photo

 今年10月、インドネシアに高速鉄道を輸出する50億ドルの商談で日本が中国に敗れたとき、日本の技術力の偉大なる象徴であり、国民に愛される「新幹線」が却下されたことを国中が嘆いた。

 しかし、今月は日中の立場が逆転し、インドのムンバイとアーメダバードを結ぶ総額150億ドルの高速鉄道建設プロジェクトを日本が獲得。中国の当局者は、これは一般競争入札ではなかったから敗れたわけではないと言い張った。

 日本と中国はアジアにおける産業面の覇権と政治的影響力を巡って競い合っており、高速鉄道の売り込み合戦はその代理指標と化した。だが、当局者に言わせれば、この状況は一般の認識とは異なる現実を反映している。高速鉄道を本当に欲しがっている国はほとんどない、という事実だ。

 「新幹線は日本のアイデンティティーの一部だ。売り込めるようがんばらねばならない」。実に気前の良い資金援助パッケージを日中両国が提示していることについて、日本のある政府高官はこう語る。

 日本はインドの新幹線プロジェクトを、120億ドルを年利0.1%で50年間融資するという条件で獲得した。当初の15年間は返済を猶予するうえ、技術支援と研修の気前の良いパッケージも合わせて提供する。また中国は、インドネシア政府に支払い保証を求めない融資を行うことでインドネシアのプロジェクトを獲得している。

高速鉄道は経済発展の重要なシンボルだが・・・

 経済発展の非常に重要なシンボルとして高速鉄道を欲しがっている国は多いが、高速鉄道が実際に適している国はそれほど多くない。高速鉄道は、互いに近すぎるわけでも遠すぎるわけでもない複数の大都市を結びつけるものでなければならないうえに、そうした大都市には相応の所得水準も求められる。台湾は新幹線を購入したが、この路線は大赤字を計上している。

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 北京交通大学の趙堅教授は「高速鉄道を維持できる外国市場はあまり多くない」と指摘する。

 例えば、タイではバンコクと結ぶに値する第2の都市はどこなのかが問題になる。また、ベトナムではハノイとホーチミンがともに大都市の基準を満たすものの、互いに1160キロも離れているため航空機に太刀打ちできない。