(2015年12月4日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

タイ軍政、W杯無料放送で国内に「幸福取り戻す」

タイの軍事政権を率いるプラユット暫定首相〔AFPBB News

 それは本来、タイの軍事政権の強硬な王党派としての資質を強力に示す公式表明になっているはずだった。プミポン国王の海辺の宮殿に近い陸軍所有地に、歴代の国王7人の巨大な銅像が建造されたのだ。

 9月の落成以降、そびえ立つ銅像は次第に大きな関心を集めてきた。ただし、その理由は将軍たちが意図したものではなかった。

 銅像プロジェクトの請負業者に賄賂を要求したとされるスキャンダルは、発足18カ月の軍事政権を悩ませる一方、軍部による国家運営を概ね控えめに批判してきた人々に新たな推進力を与えた。

 タイでは、王族を批判から守る厳格な不敬罪法の違反容疑に対する取り締まりが拡大しており、身柄を拘束された人のうち少なくとも2人が拘留中に不審死を遂げたことで生じた不穏な空気が今回さらに高まった。

政情不安、経済不振で高まる不安感に拍車

 反腐敗運動に乗り出し、選挙を繰り返し延期して権力基盤を強化しようとしていた将軍たちにとっては、タイミングが悪かった。一連の問題は、プミポン国王の88歳の誕生日を5日に控えて国民の士気を高めようとする努力を台無しにした。即位から70年近く経ち、国王の健康状態の悪さは、政情不安と経済の不振から生じた幅広い不安を増幅させている。

 「軍事政権は非常に難しい立場にある」。バンコクのチュラロンコン大学の学者、プントーン・パワカパン氏はこう言う。「経済的苦境にあって、人々は不満を抱えている。こうした他の問題は、国民の間に前向きな感情をまったく生み出さない」

 先月疑惑が表面化して以来、銅像問題は次第に現実離れした展開を見せてきた。2人の著名な野党指導者が、海辺のリゾート地ホアヒンの現場を訪問しようとした後に身柄を拘束され、12月初めになって解放された。公の場での抗議行動を禁止している軍事政権は、10億バーツ(2800万ドル)の費用がかかったと報じられているプロジェクトの現場を2人が訪れたら混乱が生じる恐れがあったと述べた。

 元陸軍司令官で軍事政権幹部であるウドムデート・シタブット大将が、像の鋳造を狙う業者に軍部が賄賂を要求したとの嫌疑には「いくらかの真実」があると語ってから、銅像公園は数々の疑問に悩まされてきた。軍部は、調査では不正の証拠が見つからなかったと述べたが、評決はごまかしだとの批判の声が上がると、さらなる調査を行うと発表した。