皆、異口同音に「トランプはどうせ共和党大統領候補には指名されないエンターティナ―だからだ」と答える。

 が、理由はほかにもありそうだ。

 その名を知らぬ者なしの億万長者。自らテレビ出演し、ベストセラーを何冊も出す著名な作家。歯に衣を着せぬ毒舌家としての「免罪符」がある。

 しかもトランプの本音ベースの発言には、不法移民問題にしろ、米市場に洪水のように押し寄せる中国製品への反発にしろ、オバマケア(医療保険制度改正)に対する「ノー」にしろ、一部の白人の側からすれば、一理も二理もあるからだ。

標的は大統領、議会、裁判所、そして東部メディア

 本書はトランプがこれまで言い放ってきた彼の政治哲学を理路整然と書き連ねたという意味では大統領選指名に向けた「マニフェスト」と言える。

 「今アメリカが置かれている状況はジョイフル(喜ばしい)ではない。我々はもう一度偉大なアメリカを作り出すために汗を流さねばならない時に直面しているのだ。だから私は今立ち上がったのだ」

 「政治家たちはキャンペーンで大きなことを言っているが、彼らがこれまで何をしてきたというのだ。口先ばかりで何もできなかった。国のまつりごとを任されたにもかかわらず、何もできなかったではないか」

 「ロビイストも特定の利益のためにしか動こうとしなかった。識者と称する弁護士や裁判官は憲法から外れた判断を繰り返し、大統領はその無能さを露呈している」

 まさに今トランプを押し上げているポピュリズム(大衆迎合主義)を見事に代弁している。

 その矛先はホワイトハウス、米議会、そしていわゆる東部エスタブリッシュメントの中核を担うリベラル派メディアやハリウッドにまで向けられている。