気が付けば、もうすぐ12月。早いもので、今年も残すところ1カ月になってしまいました。この時期、毎年恒例の楽しみの1つが「新語・流行語大賞」の発表。

「火花」や「下流老人」「おにぎらず」──。

 今年も、書店の店頭を賑わせたタイトルがノミネートされました。この中から、2013年の半沢直樹「倍返し」のような、書店の売り場を活気づける年間大賞が生まれてほしいものです。

リストラ部屋からの復活

神様からひと言』(荻原浩著、光文社)

『神様からひと言』(萩原浩著、光文社、686円、税別)

 大手広告代理店を辞めた主人公の涼平は、販売促進担当として珠川食品に入社します。しかし、入社早々、その熱すぎる性格から新製品のネーミングに関する社内プレゼンで問題を起こし、お客様相談室に異動になってしまいます。

 競艇狂いながらクレーム対応の名手である篠崎や、巨体の割にナイーブな神保、2次元の世界に没頭する羽沢ら、個性あふれる面々のお客様相談室。しかし、この部屋の別名は「リストラ部屋」でした。

 それでも、置かれた環境で前向きに仕事に取り組む涼平。来る日も来る日もクレーマーに対して、百戦錬磨の篠崎と共に、見事に応対していきます。その仕事ぶりが認められ、再び販売促進担当に返り咲いた涼平でしたが・・・。

 本書は長編ながら、一気に読み進めてしまいます。なぜなら、舞台背景の描き方が秀逸だからです。古い体質の経営陣、上辺だけの後継者、保身に走る中間管理職、といったさまざまな問題を抱える珠川食品。その珠川食品から、金銭や物資をせびり取ろうとする手強いクレーマーたち。社内に、社外に奮闘する涼平の姿に、サラリーマンならば誰しも共感してしまうからです。

 そして、痛快なラスト。涼平は、理不尽な後継者や経営陣に対して、見事にNOを突き付けます。若さゆえの暴走ではなく、地に足のついた涼平の告発は、彼自身のモラトリアムの終了を告げたものでもありました。