(2015年11月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

企業部門は貯蓄過剰に大きく寄与している (c) Can Stock Photo

 「貯蓄過剰(savings glut)」という概念は、2007~09年の世界金融危機以降に見られる超低水準の実質金利を説明する一助になる。しかし、「長期停滞(secular stagnation)」という考え方は、この貯蓄過剰が金融危機の前から生じていたことを示唆している。なぜそうなるのかを説明するには、企業部門の行動に目を向けなければならない。

 では、計画された貯蓄と投資のバランスの変化に関する分析のどこに企業部門は登場するのだろうか。

 その答えは、投資のかなりの部分を企業が行っているという事実からスタートする。

 世界の6大高所得国(米国、日本、ドイツ、フランス、英国、イタリア)では、2013年の粗投資の半分から3分の2超が企業部門によるものだった(この割合が最も低いのはイタリアで、最も高いのは日本)。

 投資でこれほど大きなシェアを占めているのだから、企業全体で言えば、利用可能な貯蓄を最も多く利用しているのも企業部門となる。ところが、その企業部門自体の留保利益も、実は貯蓄の大きな源泉になっている。これらの国々では、経済が利用可能な粗貯蓄(外国の貯蓄を含む)の40~100%を企業の利益が生み出していた(40%はフランスで、100%は日本)。

経済に資金を供給する側に回った企業

 活発な経済であれば、他部門(特に家計部門)で余った貯蓄を企業部門が使って需要と供給の両方を増加させると考えられるだろう。しかし、投資が少なくなって利益が多くなると、奇妙な話だが企業部門は純額ベースで経済に資金を供給する側に回る。その結果、財政は赤字になり、家計は資金不足に(資金を借りる側に)なり、経常収支は黒字に(すなわち、資本収支は赤字に)なる。

 日本では財政赤字が企業部門の巨大な黒字を相殺しており、ドイツでは資本収支の赤字が企業と家計の黒字を相殺している。

 世界金融危機以降、規模の大きな高所得国ではフランスを除いて、企業部門が投資よりも貯蓄の方が多い資金余剰の状態になっている。日本では、資金余剰幅が国内総生産(GDP)の8%相当額に近いという驚くべき高水準に達している。つまり、企業部門は経済全体の貯蓄過剰にかなり寄与しているわけだ。