昨年の11月、私は社会技術研究開発センター(RISTEX)の主催する、国際的なテロ対策の研究会に参加した。日本にとっても「テロ」が決して対岸の火事でないことを痛感して、衝撃を受けた。

 会合には米国、オーストラリア、日本など先進国のみならず、インド、アフガニスタン、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア、フィリピンなどからも様々な専門家が参加した。

 政治学、国際関係に始まり、危機管理、生物・化学兵器対策などの国際的権威が集められて高度な議論が繰り広げられた。私も社会心理学の専門家としてコメントを求められた。

大学生の麻薬汚染が国際的テロの資金源に

 会議はまず非公開のセッションを3日間行った後、公開シンポジウムを開くという形式で行われた。全体を通じて、各国参加者の報告を通じて「テロ」を支えている国際的なネットワークの輪郭が、おぼろげに見えてきたので、その中味をいくつか紹介したい。

 例えばアフガニスタンで生産される麻薬について。

アフガニスタンのヘロイン生産量、過去最高に

アフガニスタンで栽培されている麻薬の原料となるケシの実〔AFPBB News

 これはテロリストの最も有力な資金源の1つになっている。どうやらそれが日本に持ち込まれて、資金化されているらしい。最近、有名大学の学生が大麻を使用して社会問題化しているが、これも調査を進めていけばテロと関係している可能性がある。

 日本など先進国から集められた資金は開発途上の国々に送られて、テロのパーツが揃えられていく。例えば、フィリピンでは自動小銃などの小型火器が調達される。バングラデシュなどの最貧国では攻撃に参加する兵士役の人間が集められている。

 こんな国際テロ組織の「三角貿易」的な活動の中に、日本での「経済活動」がしっかり組み込まれているのは驚くべきことである。

 現在、日本はテロの攻撃目標にはなっていないようだ。攻撃目標にするよりも、むしろこのマーケットをうまく使って資金を調達した方が、テロの遂行には都合がいいらしいのだ。もちろん、攻撃を受けないからといって日本がテロと無縁なわけではないので、最新の注意は怠るべきではない。

バングラデシュなどの最貧国はテロ人材供給元に

 一方、バングラデシュなど世界でも最も貧しい地域で、安い値段で命が取引されていることは、本当に痛ましい。

 「いくら殺しても、テロリストは後から後から現れる」。インドから会議に参加した研究者は、状況の悲惨さを盛んに訴えていた。そしてこの会議が終わった直後に、ムンバイでの同時多発テロが起き、私の胸に複雑な感情がこみ上げてきた。