(英エコノミスト誌 2015年11月7日号)

アンゲラ・メルケル首相はこれまでで最も深刻な政治的課題に直面している。だが、欧州はこれまで以上にメルケル氏を必要としている。

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難民危機への対応で大きな試練に直面するアンゲラ・メルケル首相〔AFPBB News

 欧州を見回すと、1人の指導者が他のすべての指導者の上に立っている。アンゲラ・メルケル氏である。フランスでは、フランソワ・オランド氏が、自国が大陸を先導しているふりをするのを諦めた。圧勝で再選されたデビッド・キャメロン氏は、英国を小さなイングランドに変えようとしている。マッテオ・レンツィ氏は、昏睡状態のイタリア経済のことで頭がいっぱいだ。

 対照的に、メルケル氏は10年間の首相在職期間中、大きな混乱があるたびに大きく成長してきた。

 債務危機の時には、決断力に欠ける人物として出発したが、最後にはユーロ圏を1つにまとめた。

 ウクライナに関しては、欧州各国を囲い込んでロシアに制裁を科した(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、メルケル氏が欧州で唯一話をするに値する指導者だと考えている)。

 そして移民・難民問題では、欧州の価値を堂々と掲げ、ほぼ一人で難民を歓迎する決意を示した。

 これを、用心深さと支配的地位から無分別と惨事への進展と見なすことが流行りになっている。メルケル氏を批判する人たちは、亡命希望者を歓迎するメルケル氏の態度が原因で、同氏が、欧州を破綻させるだけでなく、そのずっと前にメルケル氏自身の政治的終焉をもたらす洪水を引き起こしていると主張する。

 どちらの主張も誤りであるばかりか、著しく不公正だ。メルケル氏は、多くの人が思っているよりも強靭だ。そして、これは実に好都合だ。欧州連合(EU)が抱える多くの課題を考えると、メルケル氏はこれまで以上になくてはならないヨーロッパ人だからだ。

メルケル首相が重要な理由

 メルケル氏の支配的地位は、部分的にはドイツの重要性を反映している。何しろドイツはEU最大の経済大国にして最強の輸出大国であり、財政は健全で失業率は歴史的に低い。メルケル氏は、EUで最も在職期間の長い指導者でもある。

 彼女の個人的な資質も重要な意味を持つ。メルケル氏は、欧州の利益を見失うことなく、ドイツの利益を守ってきた。疑り深いドイツ国民を味方に付けながら、ドイツの資金を無駄にする危険を冒してユーロを救った。