故ジョブズ氏が「死後の証言」、米アップルの独禁法訴訟

米アップルの共同創業者、故スティーブ・ジョブズ氏の伝記〔AFPBB News

 数年前、写真が趣味の友人と東北のある神社を参拝した。多くの観光客で賑わう神社の境内に入る。友人は首からぶら下げた一眼レフで軽快にシャッターを切っていた。

 本殿に入り奥に進むと、そこには見事な彫刻があり、鏡が祀られていた。周囲の観光客はスマートフォンやタブレット端末で本殿奥の写真を撮っている。

 どこにも「撮影禁止」とは書いていない。しかし、その友人は本殿奥では1枚も写真を撮ることなく、その光景を堪能していた。

 参拝の帰り、友人と居酒屋に入った。話が弾んだ頃、私はなぜ本殿奥では写真を撮らなかったのかと聞いた。

定説にとらわれるな

 「撮ってはいけないと感じたものは撮らない。ただそれだけだよ」

 本殿奥は確かに神聖な場所ではあるが、撮影禁止とは書いていないし、周りの参拝客のほぼ全員が写真を撮っている。息を飲むほどの艶やかなその光景は絶好の被写体である。

 しかし、彼は撮ってはいけないと感じ、その心の声に従った。以前から一目置く存在であったが、改めて彼の筋の通った在り方に魅力を覚えた。

 やってもいいということでも、自分がやるべきではないと感じればやらない。やらなくてもいいということでも、自分がやるべきだと感じたのであればやる。

 自らの心の声に従ってその判断を行う。周囲に流されることなく、そういった生き方をしている人間には独特の魅力を感じる。

 このエピソードを思い出すと、合わせて想起されるのがアップルの創始者スティーブ・ジョブスの次の言葉である。

 「君たちの時間は限られている。だからほかの誰かの人生を生きて時間を無駄にしてはいけない。定説にとらわれてはいけない。それはほかの人たちの考え方の結果を生きていくということだ」

 「その他大勢の意見という雑音に、自分の内なる声を溺れさせてはいけない。最も大事なことは、自分の心に、自分の直感についていく勇気を持つことだ。心や直感はすでに、あなたが本当になりたいものを知っている。それ以外は二の次だ」