押し寄せるTPPの波、「攻めの農業」は実現できるのか

日本農家の創意工夫の意欲を削ぎ落とすな

2015.11.06(Fri) 白田 茜
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 また政府の分析では、野菜や果物など計10品目で、国産と外国産で差別化が図られていることを理由に「影響は限定的」と予測している。ただ、長期的には価格が下落する懸念があることにも触れ、生産性を高めるなど農家の経営体質を強化するような支援策が必要としている。

減り続けるコメの需要、迷走するコメ政策

 千葉県のコメ農家からは「関税0%にし、無関税で輸入されている『MA米』をなくすことが産業として発展する最後のチャンスだった」との意見もあった。

 MAは、1993年の関税および貿易に関する一般協定ウルグアイ・ラウンド(UR)での合意により一定量のコメ輸入が事実上義務付けられたもの。当初、コメについては関税化しない代わりに、MA数量が上乗せされた。現在、米国、タイ、中国などから計76万トン程のMA米が輸入されている。今回のTPP交渉でさらに輸入枠が設けられ、コメの輸入量が増えることになりそうなのだ。

 国内では1970年から「減反政策」が始まった。米の生産調整や価格下落防止を目的とした政策で、生産調整に協力した農家に交付金を払う。主食米の代わりに麦、大豆、飼料用米、米粉用米、加工用米、園芸作物などを作った場合に、生産量に応じて転作補助金が支払われる。

 TPPの報道を見て、北海道のコメ農家はこう語る。「手厚い交付金がつく作物を選定して収入を増やすような営農計画が当たり前になっているような現状で『攻めの農業』と言ってもできるはずがない。自分で販路を開拓したり、収量を犠牲にしたりして美味しいお米を栽培する農家の努力が農家所得に反映されない」

 主食用のコメの生産は減らす一方で、加工用米や飼料用米には転作奨励金を出す。ブレーキとアクセルを同時に踏むような政策が、収量向上のために品種改良を行いたいと考える農家や、付加価値をつけた高品質のコメを販売したいと考える農家の意欲を喪失させることは否めない。

TPP協定で輸出拡大なるか

 TPPにより、牛肉、コメ、水産物、茶、醤油、味噌など、国内農作物の輸出拡大重点品目で関税が撤廃される。グローバルに活躍の場を求める農家にとっては「攻め」の好機となるかもしれない。

 しかし、日本の農作物は「高品質」との評価がある一方、値段の高さがネックになっている。加えて、次のような関税以外の障壁もある。

 現在、日本の農林水産物・食品の輸出額は5000億円程度。政府は2020年までに1兆円規模に拡大する目標を立てているが、輸出額は伸び悩んでいる。背景には、原発事故による諸外国の輸入規制の他、食品安全のための工程管理システムHACCPや農業生産工程管理(GAP)など輸出先の国が求める基準への対応の遅れがある。

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1978年佐賀県生まれ。佐賀県庁で食品のブランド化に関わる。その後、大学院で農業政策や食品安全に関するリスクコミュニケーションを学ぶ。食品コンサルタント会社を経て、現在は社会的関心が高い科学ニュースについて専門家のコメントを収集しジャーナリストに提供する活動をしている。関心のあるテーマは、農業、食品流通、食品安全、リスクコミュニケーション。


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。