秋田車両センターの視察風景

 帰りのバスに乗り込んでからも、鉄道と横断者の事故を防止するために運転士が果たすべき役割や、踏切の在るべき仕組みについて口々に語り合い、興奮はしばらくおさまらなかった。

環状鉄道の改良決定

 それから約1カ月後の7月4日。安倍晋三首相は東京で開催された第7回日本・メコン地域諸国首脳会議に併せて行われたテインセイン大統領との個別会談で、およそ1000億円の円借款の供与を新たに約束した。

 全国基幹送変電設備や東西経済回廊整備計画と並び、この席上で日本の協力が明言されたのが、ヤンゴン環状鉄道の改修(供与限度額:248億6600万円)だ。

 ヤンゴン中央駅を出発し、インセイン駅やダニンゴン駅、ミンガラドン駅などを通って市内を一周し、再びヤンゴン中央駅に戻るヤンゴン環状鉄道。長らく二輪車の市内乗り入れが禁止されてきたこの街で、通勤や行商など人々の生活を支えてきた“ミャンマー版山手線”だ。

 近年は、市内の建設ラッシュがますます過熱傾向にあり、交通渋滞が一層深刻になっていることから、利用者が再び増えつつあるとも言われているが、その一方で、一周約46kmと山手線の約1.3倍でありながら、所要時間は3倍の3時間かかるほど老朽化も進んでいた。

 この改修に日本が名乗りを上げた。

激しい雨の中、踏切脇で秋田信号通信技術センターの職員(左)に熱心に質問をする

 急激な人口増加が続くヤンゴン市において、交通渋滞が慢性化する前に効果的な交通対策を行うため、2012年12月よりアルメックVPI率いるJICA調査団が同市と協力して交通実態調査などを実施。

 2014年7月にヤンゴン都市交通マスタープランを策定したが、その中でもヤンゴン環状鉄道の改良は優先プロジェクトの1つとして提言されていた。

 これを受け、オリエンタルコンサルタンツ(現・オリエンタルコンサルタンツグローバル)などから成る調査団が、ヤンゴン環状鉄道の将来的な近代化に向けたロードマップの策定と、改修協力に向けたフィージビリティー調査(F/S)を行うことになった。

 当初の改良計画は、需要の多い商業地域や住宅密集地を通過する西側部分をフェーズ1として先行して改良することとし、高速での走行が可能で雨期時の冠水も防止できる土木工事・軌道改良や、電化を見据えた跨線橋の架け替え、新しい信号・通信システムの導入、踏切の自動化と付近の道路交差点の改良、自動改札を含む駅舎の改良、新型車両の導入など、総合的な内容だった。