(英エコノミスト誌 2015年10月17日号)

中国は、米国がアジア太平洋の支配的な海軍国であるべきだということをもはや受け入れていない。

アラスカ沖に中国軍艦5隻を確認、米国防総省

海洋強国を目指す方針を鮮明に打ち出した中国が、アジア太平洋における米国支配を脅かしている(写真は2014年9月、イラン・バンダルアバス港に停泊中の中国海軍の駆逐艦)〔AFPBB News

 今後数日内に、世界の大半の国・地域から見えないところで、米国海軍が中国の高まる海軍力を試す。領有権が争われているスプラトリー(南沙)諸島で中国が建設している人工島の周囲12カイリの推定上の領海内でパトロールを実施することで、それをやるのだ。

 米国海軍は2012年以降、中国が領有権を主張する構造物のすぐ近くを航行する国際法上の権利を行使してこなかった。

 このような「航行の自由」パトロール*1の再開は、南シナ海での挑戦的な人工島建設に関する懸念を和らげることができなかった、中国の習近平国家主席のワシントン訪問の後に続く動きだ。

 中国は抗議するだろうが、目先は、それが恐らく中国側の対応のすべてだろう。米国海軍の行動は、依然最も強大な――ただし、もはや比類なきものではない――米国のシーパワーの明確な行使だ。

海を支配する者が世界を支配する

 「シーパワー」という概念そのものには19世紀的な響きがあり、ネルソン提督や帝国の野望、砲艦外交を彷彿とさせる。だが、シーパワーの偉大な提唱者で、1914年に死去した米国海軍戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンの言葉は、現在の政治指導者やその軍事顧問たちに今でも注意深く読まれている。

 マハンは1890年にこう書いた。「海上貿易と制海権による海の支配は、世界での支配的な影響力を意味する。なぜなら、陸地の富の産物がいかに大きくとも、海ほど必要な交換を容易にするものはないからだ」

 ハードな海軍のような類と貿易や海洋資源の開発を含むソフトな類の両方から成るシーパワーは、依然として非常に重要だ。大量の情報がデジタルで移動し、人々は飛行機で移動する。だが、物理的なモノは今でも圧倒的に船で移動しており、海洋貿易は重量と数量で世界貿易の90%を占めている。

 だが、海の自由と接続性は必然的なものではない。それらは、ほぼすべての国が自国の利益のために同意しているが、ここ数十年間は米国だけが緊密な同盟国と協力して取り締まる手段と意志を持っていた、ルールに基づく国際体制に依存している。

 第2次世界大戦以降、世界の海洋公域へのアクセスを維持する米国の覇権的な力が挑戦を受けたのは、1度だけ、それも短い間のことだった。

 ソ連は1970年代に、立派な外観の外洋海軍を築き上げた――だが、非常にコストがかかったため、一部の歴史家はそれが20年も経たないうちにソ連体制を崩壊させた要因の1つだったと考えている。冷戦が終結した時、高いカネを払って手に入れたその船団のほとんどはさびついたままになり、北極の基地に置き去りにされた。

*1=いわゆる航行の自由作戦。領有権などを巡って争いが起きている海域に軍艦を派遣し、船舶の自由な航行を確保せよというメッセージを送る米軍の行動のこと