(2015年10月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

アジア新興国から吹き付ける冷たい風(写真は上海)

 物価の変動は多くの場合、世界的な変化を早々に知らせる前兆となる。例えば、13世紀のモンゴルの欧州侵攻の場合、英国人が感じ取った最初の兆候は、東海岸のハリッジ港での魚の価格の急騰だった。侵略者と戦うために乗組員が方向転換を命じられた後、バルト海の漁船団が航海をやめ、その結果、イングランド最大級の市場への魚の供給が断たれたのだ。

 東方で生じた現在の経済的激変は大きく異なるが、それは確かに世界の運勢を危うくする変化が起きていることを示唆している。

 デフレ(製品価格の長期的な下落)はアジア新興経済国からの寒気のように吹き荒れ、日本と欧州に水を差す一方で、景気回復を維持しようとする米国の努力も危険にさらしている。

 全般的な物価下落は、消費者にとっては無害に思えるかもしれないが、実際には経済政策の立案者に恐れられている。というのも、物価下落は企業収益を蝕み、企業に人員削減を強い、需要全般を徐々に奪っていくからだ。

深まるデフレスパイラルの脅威

 デフレは1929年の米国の株価暴落を大恐慌に発展させた原因とされている。2008~09年の金融危機の後に物価の下方スパイラルが生じかねないという不安は、量的緩和に乗り出すことにした米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長(当時)の決断の裏にある大きな動機だった。QEと呼ばれるこの金融政策は、それ以来ずっと、世界の経済サイクルを支配してきた。

 こうした理由から、深まるアジアのデフレスパイラル――製造業の過剰生産設備や貿易需要の消滅、生産性の停滞によって引き起こされたもの――の兆候は大きな懸念材料だ。この問題の構造的な性質のために、その不安が増幅されている。

 折しも欧州連合(EU)と日本が再びデフレに陥る一方、米国が弱い企業収益に苦しんでいる時にアジアのデフレが起きているということは、アジアの物価下落を極めて重要な問題にしている。