(英エコノミスト誌 2015年9月5日号)

ドナルド・トランプ氏が危険な理由

米不動産王トランプ氏、大統領選への出馬を表明

ドナルド・トランプ氏が出馬表明した当初は、ジョークとして片付けられていたが、もう何週間もトップに立っている〔AFPBB News

 「この国は最悪の場所だ。我々は急速に転落している」とドナルド・トランプ氏は言う。「我が国は何1つまともにできない。世界中で物笑いの種になっている。アメリカンドリームは死んだ」。気が滅入るような見方だが、恐れることはない。解決策は目の前にあるからだ。

 「私は(ペンシルバニア大学のビジネススクールの)ウォートンスクール出身だ。私はとても賢い人間だ」とトランプ氏は言う。

 かつては、こう豪語したこともある。「これは大いにあり得る話だが、私は出馬してそれでカネを儲ける最初の大統領候補になるかもしれない」

 米大統領選の共和党候補指名争いに名乗りを上げた当初、トランプ氏はジョークとして一笑に付された。確かにやり手で、リアリティTVの経験は豊富だが、選挙で選ばれる公職の経験は一切ない人間が、最高司令官になりたがっている? この突飛な大物実業家の指を核兵器のボタンの近くに置きたいと思う者などいるはずがないと、知識人たちは冷笑した。

共和党の指名争いでリード

 ところが、もう何週間も、通常の選挙戦なら命取りになったであろう発言を繰り返しているにもかかわらず、世論調査ではトランプ氏が共和党の指名争いのトップに立っている。米国人は、不動産などに自分の名を冠する趣味を持つ男が、ことによるとリンカーンやレーガンを輩出した党の指名候補になる可能性に気づきつつある。

 それがひどいことであるという理由は、説明しておく価値があるだろう。幸い、トランプ氏自身の言葉がその手引きの役割を果たしている。

 トランプ氏は、一貫性の呪縛にとらわれるような人物ではない。人工妊娠中絶については、「私は中絶の権利に大いに賛成している」とも「中絶には反対だ」とも発言したことがある。

 銃規制については、「聞いてほしい、私は誰も中を所持していない状態を何より望んでいる」とも「合衆国憲法修正第2条(武器を携帯する権利を保証する条項)に全面的に賛成し、支持する」とも言っている。