今年9月11日、9年前の同時多発テロの地、ニューヨーク・マンハッタン島南端近く、グラウンド・ゼロでの式典は、例年になく異様な雰囲気に包まれていた。

米国民に火をつけたグラウンド・ゼロでのモスク建設計画

グラウンド・ゼロにはためく星条旗

 この地から2ブロックほどのところにモスクを含むイスラム・コミュニティ・センターの建設が計画されていることが大きく報道されたことから、米国民の潜在的イスラム嫌悪、イスラム恐怖症に火がついたのだ。

 そして、モスク建設に反応したフロリダのテリー・ジョーンズ牧師なる人物が、9月11日にクルアーン(コーラン)を焼却する計画を公表したことで火に油を注いだ。

 不動産王ドナルド・トランプ氏がセンター予定地を相場以上の金額で買い取ることを申し出るなど、事態の収拾に多くの人が奔走した。

 しかし、報道は世界を駆け巡り、アフガニスタンやインドネシアといったイスラム教徒が多数を占める国々で反米デモが激化するなど、米国内だけの話ではなくなってしまった。

 米国の仲介でイスラエル・パレスチナの直接和平交渉が1年9カ月ぶりに再開されたというのに、こんなことで大丈夫なのか、と心配になってしまう。

ニューヨークの差別犯罪は、イスラム教徒よりユダヤ人に対する方が多い

 もっとも、ニューヨークでの差別犯罪、いわゆる「hate crime」の件数は、実はイスラム教徒に対するものよりユダヤ人に対するものの方がずっと多いという報道もあり、米国という国の宗教や人種に対する意識は思いのほか複雑だ。

 国際的批判を浴びながら、そして閉鎖を掲げたバラク・オバマ政権であるというのに、いまだグアンタナモに収容され続けている「テロリスト」とされる人々の多くを占めるのがイエメン人である。

サナー旧市街

 9.11の首謀者とされるウサマ・ビンラディン第2の故郷であるこの国は、今、「アラビア半島のアルカイダ」の根城になっていると言われている。もともと湾岸戦争でも親イラクのスタンスを表明し、反米、反西欧感情の強い国であった。

 映画『英雄の条件』(2000)でも描かれたような、首都サナーにある米国大使館周辺での反米デモが暴徒化することは以前から何度も起こっているし、日本大使館にも爆弾が放り込まれたことがあるので日本人にとっても他人事ではない。