これが「昼食たべて眠くなる」本当の理由

昼食後の眠気、その原因と対策(前篇)

2015.08.14(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

櫻井武氏(以下、敬称略) まず、体内時計による覚醒系への出力が、午後の2時や3時ごろ、一時的に落ちるということがあります。生体のリズムが実際そうなっています。

 人間は昼行性の動物であり、昼間に覚醒を高めています。とはいっても、昼間ずっと高いわけでなく、波があります。午後の2時、3時ごろ、覚醒の出力の一時的なくぼみが起きるのです。朝や夜には、この出力は高まっているので、朝食後や夕食後にはあまり眠気を感じません。

――どうして午後2時から3時ごろ、覚醒への出力が低下するのでしょう?

櫻井 たいていの動物は昼間でも寝たり起きたりしています。人間はというと、昼間ずっと起きて、夜ずっと寝る「単相性睡眠」をとる動物です。多相性睡眠をとる動物をみても、活動期に入った後と休眠期に入る前に覚醒は多く見られ、中間の部分では睡眠をとることが多くなります。人は基本的には活動期である昼間ずっと起きていますが、昼過ぎに一時的に覚醒への出力が低下し、昼間に眠ることもあるわけです。

櫻井武(さくらい たけし)氏。金沢大学医薬保健研究域医学系教授。博士(医学)。1964年、東京生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院人間総合科学研究科准教授を経て、現職。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。新しい神経ペプチドの探索や機能解析を進めつつ、睡眠・覚醒機構や摂食機構、情動の制御機構の解明を目指す。「つくば奨励賞」「第14回安藤百福賞大賞」「第65回中日文化賞」「平成25年度文部科学省科学技術賞」など受賞歴多数。著書に『食欲の科学』『睡眠の科学』(ともに講談社ブルーバックス)『睡眠障害のなぞを解く』(講談社健康ライブラリー)などがある。

――食後の時間と、覚醒出力の一時的な低下の時間が重なっているわけですね。食事そのものも体に影響しているのでしょうか。

櫻井 ええ。食事との関係もあります。正午ごろ昼ごはんを食べますね。すると、血糖値が上がります。血糖値が上がると覚醒が落ちるのです。これがもう1つの要因です。

――なぜ、血糖値が上がると覚醒が落ちるのでしょうか。

櫻井 例えば、「オレキシン」という物質にも関係しています。オレキシンは、覚醒をもたらすことにかなり特化した物質です。

 食後は血糖値が上がりますが、オレキシンをつくる神経細胞の活動は、血糖値が上がるとすぐに対応して変動し、落ちていくのです。オレキシンがあまりつくられなくなり、覚醒が低くなるので、眠気が増していきます。

――食後の満腹感も、眠気と関係しているような感覚をもちます。

櫻井 満腹であるという状態も眠気に作用します。満腹と逆に、空腹のときは食を求めるモチベーションが高くなっている状態といえます。肉食獣などがお腹を空かしているときに積極的に餌を求める行動から分かるように、報酬を求めようとするとき、覚醒は高くなります。みなさんも、お腹が空いているときは眠れないという経験をされたことがあるのではないでしょうか。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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