長崎で被曝しながらも生き残った人たち10人を25年間にわたり「定点観測」してきた米国人女性の著書『Nagasaki: Life After Nuclear War』(ナガサキ:核戦争のあとの人生)が出た。

 著者は自分で立ち上げたアリゾナ芸術シアターの芸術監督のスーザン・サウサードさん。高校時代に日本留学経験もあり、日本語は堪能だ。

 取材と調査は徹底を極めている。

 ヒバクシャとその家族や知人への精力的な聞き取り調査。長崎の被爆者の治療に当たった日米の医師や専門家とのインタビュー。ヒバクシャたちの証言を科学的、医学的、政治的、軍事的な裏づけをとるために精査した文書は、当時極秘とされた米軍・米政府の解禁文書はじめ日本側資料など200点を超えている。

今も根強い原爆正当化

Nagasaki: Life After Nuclear War
Susan Southard
Viking 2015

 これまでにもナガサキを題材にした米国人の手による著書はある。が、その大半は「上から目線」。前提には「原爆は多くの米将兵の命を救った」という米歴代政権のスタンスがある。

 未通告、無差別民間人虐殺の違法性を唱える米歴史家がいないわけではない。が、そうした良識の声は米大衆のブーイングでかき消されてきたと言っていいだろう。

 ところが著者は違う。原爆で殺された人たちではなく、かろうじて生き残った人たちに目を向けた。

 「ヒバクシャに寄り添ったナガサキのストーリーを描きたい」という筆者の熱意が本書の全編に満ち満ちている。取材対象となったヒバクシャ10人はその熱い想いに応じるかのように全面的に協力している。

 後期高齢期を迎えたヒバクシャたちは、記憶をたぐい寄せながら過去から現在までの半生について、この米国人女性に包み隠さず語り続けている。