景気のいい時には、努力しなくても次から次へと仕事が押し寄せてくるものだ。だが、景気がいい時というのは絶対に長くは続かない。ひょっとすると、もう日本には景気がいい時代は到来しないかもしれないって、時々思うんだけど。

 何もしなくても仕事が手一杯っていうくらい繁盛している時に、次のことを考えておかないと、仕事がなくなってから慌てふためくことになる。

 町工場の社長で多いのは、たまたま仕事で一発当てて、カネが入ったからって高級外車を乗りまわして、女遊びにうつつを抜かしているやつ。これが一番、先々暗くなる典型。

 町工場は、言うまでもなく景気に翻弄されやすい。風向きが変われば一気に立ちゆかなくなるものだ。

 会社というのは、順調な時に何をするかでその命運が決まる。お金を貯めて財務体質を強くするとか、新たな技術革新に励むとか、設備に投資するとか。余裕のある時に、次の時代に備えておかないとな。

 最近、100年に1度の不景気とか言われて、優れた技術をもった町工場でさえも仕事が激減したよね。いまだに景気の行方が見えないから、社長は経営の舵取りが難しく、まさに困難な状況にある。

 「困難」とは「困る」と「難しい」が合わさったものだ。人間は、困った時にこそ力が出るもので、力が湧いてこないようであれば、それはもう諦めてしまったか、まだそんなに困っていないかのどちらかなんだろう。

 ちょっと経営が苦しくなると「もう駄目だ」なんて弱音を吐く社長がいる。でも、社長というのはいつだって「こうやるんだよ!」って社員に見せつけられないようじゃ失格だ。俺はいつもそうしてきた。

クヨクヨするのは理想が高いから

 とはいっても、おれも今まで数々の失敗をしてきた。開発などで行き詰まって、解決の糸口が見つからずに眠れない夜をどれだけ過ごしてきたことか知れない。

 開発ってのはイメージでは成功するが、現実にはイメージ通りにならなかったりするものだ。だから、思うようにいかない時には癇癪を起こしたり、八つ当たりしたこともある。もちろん悪気はないんだけど。そんな時は自己嫌悪に陥るものだ。

 野球では、4番打者でさえ打率は3割。最強の打者でも10回打席に立って7回は失敗するってことだ。つまり、熟練した人でも、成功より失敗する場合の方が多いってことだよ。