意見を言ったり質問したりしながら自由な雰囲気で授業が行われる(写真提供:きんでん)

 この夢の実現に力を貸したのが、関西電力グループのきんでんだ。

 同社は、AGTI協会が技能教育の提携先を探しているのを知り、2013年3月、同協会および住友商事との間で教育施設の開講に向け合意協定を締結。校舎の確保・改修や学生の募集などを急ピッチで進め、翌14年7月に第一期生40人を迎えて開講にこぎつけた。

 きんでんが海外で人材育成に取り組むのは初めてではない。同社は1993年、雇用対策を兼ねた社会貢献の一環として、ベトナム・ホーチミンの職業訓練学校内に電気技術者の育成コースを設置。閉講するまでの10年間で約200人の技術者を輩出した。

 うち2割は同社の現地子会社に就職し、現在、中堅人材として活躍しているが、卒業後の進路には特段、制約をつけていなかったため、地元企業や多国籍企業などで活躍している者も多い。

 「ベトナム社会のあちこちに“きんでんファミリー”がいるというのが心強い」と西田達雄顧問は胸を張る。

 このベトナムの“成功体験”を後ろ盾にミャンマーでも人づくり事業に投資することを検討し始めた同社にとって、この地の高等教育機関がことごとく閉鎖されていたのは想定外の事態であっただけに、AGTI協会との出会いは、提携先の発掘に苦慮していた同社にとっても願ってもないものだった。

 こうしてスタートしたサクラ・インセインでは、体力づくりから座学、実技演習などが凝縮された8カ月間のカリキュラムが組まれ、送配電線の設置工事と屋内電気工事の技術指導が行われている。

ランニングは体力づくりに欠かせない(写真提供:きんでん)

 やり方は、徹底した“きんでん流”。

 指導にあたるミャンマー人技術者6人は、開講に先立ち、同社の全寮制の技術訓練施設「きんでん学園」(兵庫県西宮市)に半年間派遣され、「心」「技」「体」三位一体の全人教育を通じて「One for All(まず仲間のことを考える)」というチームワーク精神を叩き込まれた。

 その先にあるのは安全の確保だ。「高圧電流が流れている電力工事の現場では、誰かのミスが別の誰かの命取りになるからこそ、“チーム”や“組織”を理解している人材が必要」だと国際事業本部の西康二営業部長は力を込める。