緑茶のひとつ「煎茶」。緑茶はチャノキという植物の若芽を蒸してつくるお茶のことで、蒸すことで酸化作 用が失われて緑色が保たれる(蒸さずに発酵させたものは紅茶や烏龍茶になる)。緑茶の種類には、煎茶、玉露、抹茶などがある。この中で煎茶は、覆いをせず日光に晒し続けて栽培した茶葉を精製したもので、飲むときにお湯を注いで煎じ出すため、煎茶と呼ばれる。

 訪問先で、親切にも飲みものが出される。そういえば、「コーヒーでよろしいですか」と聞かれることはあるが、「お茶でよろしいですか」と確かめられることはあまりない。緑茶の場合、何も言われずそっと差し出されることが多い。

 緑茶が嫌いという人はまずいない。きっと私たちは、そんな確信的な前提を共有しているのだろう。日本人が飲むお茶といえば、緑茶。そこに疑いを挟む余地はない。

 けれども、日本人の生活に最初から緑茶があったわけではない。以前、緑茶の1つである「抹茶」を取り上げた回で伝えたように、平安時代に遣唐使がお茶の種を日本に持ち帰ったことが日本のお茶の事始めではないかと考えられている。

 大陸から伝来してきたお茶は、いまや緑茶として日本の味の1つになっている。日本人が緑茶を飲むことが当然になるまでには、どのような経緯があったのだろうか。

 今回は、緑茶のなかでも私たちがよく飲んでいる「煎茶」を中心に、その歴史と科学の面から見ていきたい。

 前篇では、煎茶の歴史を追っていく。煎茶の歴史を創った鍵となる人物、そして技術革新がある。後篇では、緑茶に向けられた現代科学の視点を伝えたい。煎茶の味の特徴である渋み成分に着目しつづける企業メーカーの研究所を紹介したい。

「ただ飲み結構」と、江戸に茶を広めた僧侶

 いまで言う「煎茶」は、茶葉をお湯で煎じ出すお茶のこと。かつて平安時代には、茶葉を団子状に丸めておいた「餠茶」を粉末にしてから煎じ出したお茶を「煎茶」と呼んでいたことが分かっているが、茶葉を煎じて飲む方法でないため、今の煎茶のルーツとは言いがたい。