6時ちょうどに耳をつんざく汽笛が鳴り、大きく息を吸い込むようにがたん、と一揺れして列車が動き始めた。しばらくは窓から手を伸ばせば届きそうなほど近くまで建物が迫っていたが、10分ほど走ると急に左右の視界が開け、農地が広がった。

 明るくなるにつれ、朝の畑仕事に向かう人々の姿が浮かび上がってきた。ふと、あれほど騒がしかった車内が静かなのに気付き周囲を見回すと、出発して安心したのか、ほとんどの乗客が背もたれに体を預け寝入っている。

 通路の反対側に座る母娘2人連れは、周囲を気遣い声を抑えようとしながらも話に夢中だ。斜め前の男性は静かに本を開き、くつろいでいる。それにしても、確かに揺れはひどい。スピードが上がるにつれ、横揺れだけでなく、時折、どすん、と縦揺れが混じり始める。

 8時を回ると、日もすっかり昇り車内に活気が戻ってきた。駅に停車するたびに、ご飯を詰めた発泡スチロールのパックや、お惣菜の入ったお鍋、パン、果物、水などを抱えた売り子が乗り込んできては、乗客に声を掛けながら通路を行ったり来たりする。

 いろいろなにおいが充満し、むせ返るようだが、周囲が“駅弁”を楽しむのにつられて、目が合った売り子の女性から茹でトウモロコシを1本買ってみた。まだ湯気が上っているほど熱々だ。

 素朴な甘みにほっとくつろいでいると、今度は本を腕いっぱいに抱えた男性が歩いて来た。斜め前の男性が読んでいた本を渡し別の本を受け取ったところを見ると、貸本屋だろうか。

 こうして乗客の様子を眺めているうちに、いつの間にか時計は正午過ぎを指していた。出発から6時間と少し。上下左右のランダムな揺れにも慣れてきた頃、列車は意外にも定刻通りにネピドー駅に滑り込み、安堵の気持ちと名残惜しさが半々の複雑な気持ちでホームに降りた。

列車の中ではお弁当や水、パン、ゆでトウモロコシなどを販売する売り子が頻繁に行き交う。ミャンマー版車内販売だ。
駅では売り子も家畜も一緒に列車の到着を待っている