モーラミャイン駅に入線する列車を迎える人々(撮影:玉懸光枝、以下同)

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人々を運ぶ鉄道

 夕方17時20分、列車が滑り込んできた。線路の振動がホームにも伝わってくるようだ。

 夕暮れ時の低い太陽が最後の気力をふりしぼるかのように照りつける中、果物やお菓子を乗せたかごや銀製の平らなプレートを脇に置き、長い髪を櫛でとかしたり、小さなプラスチック製の椅子に腰かけておしゃべりに花を咲かせていた物売りの女性たちもにわかに真剣なまなざしに戻ってトレーやかごを頭の上に乗せつつ立ち上がり、列車へと歩み寄っていく。

 ここは、ヤンゴンから東へ直線距離で約200km離れたモーラミャイン駅。約10時間かけて到着した乗客のほとんどが地元の人々の中、バッグパックを右肩に掛け、慣れた様子で列車から降り立つ金髪の男性がひときわ目を引いた。

 約10年前、英国人作家ジョージ・オーウェルの足跡をたどりこの国を旅したエマ・ラーキンがこの地に降り立った時も、まさにこんな風だったのだろうか――と、想像してみる。

 しかし、列車から降りた乗客たちが三々五々散っていくと、そんなにぎわいもまるで嘘だったかのように駅にはゆったりとした時間がまた戻る。

 売り子たちも身支度をしてホームを後にするのを見て、先ほど到着したのが今日の最終列車なのかと思ったが、改札の脇にあるキオスクのような店先にはスーツケースや食料のほか、通学用の制服や文房具などがところせましと並べられたままで、まだ閉まる気配がない。

 駅構内のベンチにも、まだ何人も座っている人がいるところを見ると、さらに南に向かう列車があるのかもしれない。